いわゆる「応援ソング」というやつが嫌いです。厳密には、曲というよりも歌詞のことを指します。
その手のものを集めたサイトで上位に入ってるものの歌詞は、だいたい不快にさせます。
こっちの都合なんて知ったこっちゃないはずなのに、キレイなフレーズを並べてハートキャッチ。 ・・・こんな商売のやり方には辟易なんでござる。 ┐(-。ー;)┌
そんなんでは慰めにはならんのです。
そんなんで元気になれるのなら、たいして重い事態でもないんだろう。
まぁ、まったく聴かないわけではないですよ。嫌いってほどじゃないのもあります。
だけど、元気を出す目的で聴こうと思ったことはないし、実際、それで元気が出たためしもないんですわ。
漫画家の水木しげるさんが、こんなことを言ってたそうです。
「(最初の『ゴジラ』を観て)自分より幸せな人がゴジラに酷い目に遭わされるのが面白かった。何度も観た」
これね、ケシカランと言う人もいるのかもしれませんけど、健康的ではあると思うんです。だって心理学的に、ヘコんだときには暗い映画を観たり暗い音楽を聴くことのほうが立ち直りが早くなると指摘されてることですからね。ノリのいい曲を聴いたり楽しい映画を観るのは逆効果とのこと。
とはいえ「他人の不幸は蜜の味」ではありませんが、実際に不幸に遭っている人を見てニヤニヤしましょうなんてのは、さすがに気が引けます。心も痛みます。
なので、こういうときこそ「疑似体験」で発散するのです。映画でもいい。音楽でもいい。スポーツでもいい。私がバッドエンドの映画が大好きな理由は、そういう面もあってのことなのです。惨ければ惨いほどゴキゲンちゃんになれますから。
そこでです。
当ブログの初期に『こどものための合唱組曲 チコタン──ぼくのおよめさん』の記事を書いたことがありました。まだ見てない方は、いっぺん目を通していただきたいのですが。
『チコタン』は最高でした。内容もさることながら、わざわざ子どもたちに歌わすことで、より胸に突き刺さるものがありました。それも、チクチクではなくグサグサです。
まるでレッドマンのレッドアローかレッドナイフです。
もちろん、なかには「不謹慎だ」「人としておかしい」「キチガイか」・・・といった、いわゆる常識派とされる向きから苦情が出ることも大いに予想されます。
しかし私は、そういうのも込みで面白いのです。そして、世間を敵にまわすリスクも承知で世に送り出したであろう作者の心意気に、賛辞を贈りたいのであります!
さて、ここからが今回のメインになります。
『チコタン』をも凌ぐ凄歌があるんですよ。
『日曜日 ~ひとりぼっちの祈り~』
これも『チコタン』を作った蓬莱泰三&南安雄の黄金コンビにより作られた童謡で、こちらも「朝」「街で」「かえり道」「てがみ」「おやすみ」といった全5章で構成される合唱組曲なんであります。
『チコタン』同様、歌いこなすにはかなりの難易度が求められそうな佳曲です。そして詞の内容も、やはり子どもの視点からの交通事故を題材にしています。ただし『チコタン』が被害者の立場から事故に遭うまでを描いているのに対し、本作では飲酒運転による交通死亡事故加害者の家族(その事故により加害者である自分の父親および同乗していた母親も死亡したうえ、世間から罵られる日々を送る子ども)が、事故のもたらした影響に後々まで苦しむ姿を詳細に描いているというもの。
聴きたいでしょ? 聴きたいでしょ? では聴いてください。
聞き取れない箇所もあると思うので、歌詞の書いてあるサイトをどうぞ日曜日 ~ひとりぼっちの祈り~
死ーんでしーもーたー♪
第1章の時点で既に『チコタン』と同等の破壊力が炸裂する! しかし追い討ちはとどまるところを知らない。章が進むにつれ、攻撃はエスカレートしてゆくのです。
それは、聴く者が「ごめんなさい、もうじゅうぶんです!」と土下座しようとも、決して手を緩めることはありません。
続く第2章では主人公の孤独が強調され、そして衝撃の第3章・・・。
主人公の少年が「人殺しの子」と罵られるくだりが繰り返し訪れるのです!
それも4連発を4回!
「人殺しの子」×4×4! 都合16回もなんであります! 罵る者は、それまで「友」だと思っていた連中です!
これは効きます ハイチオールCよりも効きます
『チコタン』の少年は事故を起こしたドライバーおよび交通社会に怒りをぶつけることができました。しかし、こちらの少年は身内が事故を起こした加害者側。怒りをぶつける矛先すらありません。それどころか「ぼくは君とこの車に衝突さした人の子どもです」「もし君が一生びっこになって働けんようになったら ぼくが弁償します」・・・と、健気にも被害者に詫びるくだりが大々的に盛り込まれているのです!
お父ちゃんもお母ちゃんも死ーんでしーもーたーのに。
察するに、被害者側にも親が死んで天涯孤独となった、主人公と同世代くらいの少年(または少女)がおり、さらに障害が残るような怪我を負っているものと推測される。
「がんばって」「負けないで」「ひとりじゃないよ」・・・。
応援ソングに定番のフレーズが束になってかかってきたところで「人殺しの子」が投下される本作の前には無力に等しい。束になってかかってきても「人殺しの子」というフレーズひとつに勝てやしない。
というか、この少年を元気づけるために応援ソングのフレーズを捧げるなんてこと、できますか? 通用すると思いますか? わかるでしょう、いかに応援ソングの歌詞が軽々しいかが。薄っぺらいかが。応援ソングを束にしても、人殺しの子は救えないのであります!
がんばって? 他人事だな、おまえが勝手にがんばれ!
負けないで? ムチャ言うな、勝者がいれば敗者もいるもんだ!
強くなろうよ? 人の弱さを許せないあんたはどれだけ心が狭いんだよ!
ひとりじゃないだ? 甘ったれるな、人はひとりで生まれてひとりで死ぬもんだ!
最後に愛は勝つだと? 簡単に「愛」を口にするやつの言葉なんか信じられるか! ぬるい勧善懲悪モノの時代劇でも見てろ!
応援ソングの無責任な言葉の数々には、こうした暴言でも叩きつけてやりたくなるんですわ。
誰かを心配してるフリしてるけど本当は自分が善人であることをアピールしたいだけなんじゃないかと、そんなふうにもとれるんですが。
言うだけならタダですからね。じゃあ面倒までみてやれるのかといえば、そこまではできないでしょ。
そんなのよりは、そんなのよりは・・・。
拝啓 こんにちは
足のおけがはどうですか
ぼくは君とこの車に衝突さした人の子どもです
こっちのほうが、よっぽど説得力ありますよ。
こんな救いのない歌、よくぞ作ってくださった!
こんな夢も希望もない歌、よくぞ作ってくださった!
だから、元気が出るのです。
そんなわけで、ある特定の層を敵にまわす記事でした。
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