ニュースラジオ番組以外にも
声のお仕事があります。

例えば、
番組・イベント宣伝用
ナレーション。

他にも
映像取材の方や制作の方の
企画に参加して、
ナレーションすることも。


私は
もともと
画面に出ることを
得意としておらず、

むしろ
画面に映らない側を
希望していたくらい

はっきり言って
自分が好きではなかったので、

顔出しなしの
声のお仕事のほうが
断然大好きでした。

というのも、
本当は
アナウンサー志望ではなく、
ナレーターのほうに
興味があったからです。

社会人になってから
スクールに通いはじめたのも
ナレーターに憧れたことも
理由の1つでした。

アナウンサーよりも
高い技術を要する仕事で、

アナウンサーレベルで満足せず、
声の表現力を磨きたいと
ハイレベルな指導を
受けてきました。

ただ、
先にも述べました通り
東日本大震災が
人生を変えました。

顔出ししたくはない派の私でも
地元には
少なくとも・・・
高校生まで
お世話になった方々がいるし、

大学卒業後に
地元で高校教師をしていて、
そこで関わってきた
生徒たちや先生たちもいます。

地元で3年間貯金をし、
夢を描いて無職のまま
再び東京に出て行ったのですが・・・

好きなように生きてきた分
今こそ
身につけたスキルを還元して
地元に恩返しだと。

アナウンサーは
中学生の頃の憧れで
もう
とっくにあきらめていました。

学生時代に
記念受験はしましたけど。

本当になれるとは
思っておらず・・・。

話が反れてしまいましたが、

採用されたからには
アナウンス技術があるのは
当たり前の世界。

だからこそ、
ナレーション技術で
周りから
信頼を得られたのは
自分にとっても
大変名誉なことでした。


当時、
福島放送局には
ベテランの
カメラマンさんがいました。

惹きこまれるような映像は
素晴らしく
見る者に感動を与える。

本当にスゴ腕のカメラマンさん。

ただ、
初対面で
初めてご一緒したとき、
取材の
右も左もわからぬ新人の私は
だいぶ怒られました;

キャスター陣からも
恐れられていたような人物
なのですが・・・

私のナレーションを聞いて
彼からの評価が変わりました。

是非とも
自分の映像のナレーションを、と
リピート依頼がくるように。

通常、
ナレーション依頼は
個別にあるものではなく、
アナウンス部に降りてきて、
アナウンス部の部長から
誰かに割り振りされるもの。

ですが、
直接依頼してもらえる関係に
なったのです。

それも
1回だけではありませんでした。

私にとっても
素晴らしい映像作品と
コラボできることで
より気持ちも高ぶり、
熱意が溢れてくるものでした。


そんな、あるとき、
非常に表現が難しい作品に
ぶつかりました。

視聴者の手紙を声にするもの
なのですが・・・

原発事故に見舞われ、
苦渋の生活をされている方の
何とも表現しがたい
複雑な心境
そこには
こめられていました。

・・・

迷いました。

どう読むのが
視聴者の気持ちに近いのか。

正直わかりませんでした。


一言では言い表せない。

悲しみ

苦しみ

怒り

悔しさ


それでも
前を向いて生きたいと願う
強い気持ち

・・・

絡み合う
もどかしい気持ち。


自分自身が
その立場にあるわけではないから
手紙の主の気持ちを
丁寧に紐解いて
イメージするよりほかに
手段はありません。

もはや
役者の領域。


収録の時間になり、
ブースに入りました。

ヘッドフォンをつけて、
マイクテスト。

いざ。

スタートするなり、

その、
なんとも表現しがたい

もやもやと・・・

ざらざらした気持ちが

なんとも言えない
絶妙な声となって
自然とつむぎだされました。

これだ!と
ピンときました。

あの一度きりにかけた気持ち。

収録前の不安は
吹き飛びました。

わからない気持ちを
突き詰め、
たどり着いたナレーション。

やはり、
これも
あのときの福島に
帰ったからこそできた
貴重な体験だと思えます。

手紙の主は
80代のおばあちゃんなのですが

ナレーションを聞いた
ニュース番組のスタッフやデスクから

本当は
80歳なんじゃないの?

突っ込まれたほど。

もちろん、
褒め言葉で(笑)

映像にご本人は映ってはおらず、
ふくしまの風景が描かれ、
そこに声を乗せたのですが、

原発事故被害者という背景を背負った
高齢の、
人生経験豊富な人物が
目に浮かんでくれたとしたら
ナレーター冥利に尽きます。


などなど、

スタジオでも
映像を見ながら、
涙が出てくるほど
感動しましたという声もあり、

本当、
嬉しかった。

ナレーションに関しては、
他のキャスター陣には
負けていない自負はあったけど、
これまでやりたかった仕事の
チャンスが次々巡ってきて、
やりがいを感じました。

ナレーションのときは、
なぜだか
いつもの自分とは違って・・・

スイッチが
入るんですよね(笑)

不思議なものです。