今年の収穫(映画・本)
今年もあと数時間で終わり。ことし心に残った作品をメモとして残します。いずれも、おすすめです。
【映画】『黄金のアデーレ 名画の帰還』:クリムトが描いた『アデーレ・ブロッホ=バウアー夫人の肖像Ⅰ』という絵を、オーストリア政府から取り戻すという、実話に基づく作品。ロスアンジェルス在住の亡命ユダヤ人マリア・アルトマン夫人をヘレン・ミレンが演じる。
【新刊書】
①『渡部昇一 青春の読書』(ワック出版、四六版 614 ページ、3700 円)
②中野翠『いちまき ある家老の娘の物語』(新潮社、四六版 174 ページ、1400 円)
③永栄潔『ブンヤ暮らし三十六年 回想の朝日新聞』(草思社、四六版 334 ページ、1800 円)
④伊藤隆『歴史と私 史料と歩んだ歴史家の回想』(中公新書、294 ページ、950 円)
⑤ピエール・ルメートル『悲しみのイレーヌ』(橘明美訳、文春文庫、472 ページ、860 円)
【復刊書】
⑥徳岡孝夫『五衰の人 三島由紀夫私記』(文春学藝ライブラリー、文庫版 328 ページ、1220 円)
①は、渡部先生の25歳までの人生を、お読みになった本の記憶とともに綴ったもの。博覧強記というのはこういう人のことを指す。
②「いちまき」は、血のつながった一族の意。歴史上の意外な人物とつながりがあることを発見していく、そのたびごとの驚きの感情の吐露が素直ですがすがしい。
③朝日新聞の名記者で鳴らした人の回想禄。硬骨漢の面目躍如。
④オーラル・ヒストリーという歴史記述の方法に一時代を画した碩学の、これも回想録。
⑤ベストセラー作家の出世作。文学から文学が生まれる、とよく言われるけれど、その見本のような作品。陰惨な犯罪小説なのに後味はさっぱりしている。前作『その女アレックス』も同じ訳者の訳だったが、「間然するところがない」と評すべき名訳だと思う。
⑥自決前に「檄文」を託された元毎日新聞の記者が、この作家との付き合いを淡々と語る。「面白い人」三島の像がきっちり描写されている。