手袋を履く
秋田県南、奥羽山脈に位置する小安峡温泉の宿屋「こまくさ」のおかみさんは、横手盆地(湯沢市)をはさんだ対岸(という言い方はおかしいか、向こう側)の出羽丘陵の麓の羽後町からお嫁にきた方です。このあいだ1泊したときに、「手袋を履く」と子どものころから言っていたとおっしゃった。隣の湯沢市ではおそらく全員「手袋をはめる」と言っているはずで、いわゆる標準語でも「はめる」が普通です。羽後町でも一部の地域で「手袋を履く」と言っているのかもしれません。方言の本には、「島」とか「飛び地」のように、ある表現が孤立して存在することがあると記されていることがあります。
俄然、興味を引かれたので、まずネットで調べてみました。「手袋を履く」というのは、北海道全域で言われているらしい。室蘭出身のトヨキさんに会ったときに聞いたら、お母さんに「寒いから手袋を履きなさい」と言われ、自分でもそう言っていたということでした。トヨキさんは昭和39年生まれです。
北海道の方言は、入植した人々の元の方言を残しているのが普通とのことなので、本土内地(これ、北海道風表現)でも、必ずや少なからぬ方言で「履く」を使うのではないか、そこまでは思いついたのですが、ネットではそれ以上調べがつかなかった。
国立国語研究所のホームページには質問を受け付けるサイトがあるので、メールで問い合わせました。後日、山田貞雄という先生が電話で懇切丁寧に教えてくださいました。
山田先生に教えていただいた参考文献を確かめに葛飾区立中央図書館(金町)に寄りました。この図書館はじつに重宝する施設です。区民でなくとも利用できます。
平成4(1992)年から6(1994)年にかけて刊行された『現代日本語方言大辞典』(全8巻+補巻)という膨大な辞典が教えてもらった本でした。
なんと秋田市では「手袋を履く」と言う、と書いてありました。インフォーマント(情報提供者の話し手)は16名で、明治40年代から大正初年代のお生まれの方々。項目「はめる」に注記があって「手袋はハクと言う」となっています。北海道についても同様の注記。今でも、秋田市では「手袋を履く」と言っているか、知り合いがいるので、後ほど聞いてみますね。
他に、「手袋を履く」のは、青森市、八戸市、兵庫県、岡山市、徳島市、香川県など。いずれも、そういう言い方もする、という記述です。
北海道の「手袋を履く」は、秋田市近辺から入植した人々の表現が広まったのかもしれない。面白い展開になってきました。また、何か分かったらご報告しますね。
羽後町の「手袋を履く」は、元の秋田方言を保存してきたものである可能性もあります。探索のヒントを与えてくださったトモコさん、ありがとうございます。