今年読んだ本から
今年読んだ本のうち、記憶に残るもの。コロン(:)のあとは副題。
【四六判】
①池田信夫・與那覇潤『「日本史」の終わり:変わる世界、変われない日本人』(PHP、1600円)
②大鹿靖明『メルトダウン:ドキュメント福島第一原発事故』(講談社、1600円)
③門田隆将『死の淵を見た男:吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』(PHP、1700円)
④鳥越輝昭『表象のヴェネツィア:詩と美と悪魔』(春風社、2800円)
【新書】
⑤塚本勝巳『ウナギ 大回遊の謎』(PHPサイエンスワールド、900円)
⑥加藤泰浩『太平洋のレアアース泥が日本を救う』(PHP、780円)
⑦藤堂具紀『最新型ウイルスでがんを滅ぼす』(文春、880円)
⑧有馬哲夫『原発と原爆:「日・米・英」核武装の暗闘』(文春、770円)
⑨菅直人『東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと』(幻冬舎、860円)
【文庫】
⑩ジェフリー・ディーヴァー『追撃の森』(文春、1000円)
⑪ジョン・グリシャム『自白(上・下)』(新潮、各710円)
①は文句なしのナンバーワン。タイトルがミスリーディング(というかペダンチックすぎる)なところで損をしている。連綿と続いてきた日本人論に止めを刺すおもむきがあります。
②と③は、福島原発事故の当事者への綿密な取材で実際に何が起きたかを検証した。③は吉田所長だけでなく、現場で仕事をした無名の作業員たち(と家族)への敬意ある筆致が印象的。⑨は、当事者その人の記録。法律が決めたことで、総理大臣に何ができて何ができないか、キチンと頭に入っているのですね。それでも「要請」によって浜岡原発を止めた。
④は著者久々の単行本。ヴェネツィアの観光名所「ためいきの橋」の名は、バイロンの次の詩句でヨーロッパ全土に広まったのだそうです。
I stood in Venice, on the Bridge of Sighs;
A palace and a prison on each hand:
ぼくはヴェネツィアの「ためいきの橋」
のうえに立っていた。宮殿があり
橋の両側が監獄だった
「橋の両側が監獄だった」という訳文になる理由が私にも分かるように書いてあります。本書は、文学研究がそのまま文学的昇華を遂げうることを示した稀有の作品です。
⑤⑥は、日本の将来が明るくなるのはここからだ、という自信に満ちた研究者たちからのメッセージ。⑦もそういう感じがあります。
⑧は、正力松太郎の時代の原発開発の話。最初の原発はイギリス製だった、というのは初めて知りました。
今年読んだミステリーは、⑩⑪のみだった。二つともアタリでした。
ついでながら、評判になった、三浦しをん『舟を編む』(光文社、1575円)という小説を読みましたが、主人公が出版社の社員で辞書編集担当という設定なのに、辞書の原稿を(苦心しながら)書くという、私の経験ではありえないことが記されています。イワナミとかショウガクカンとかの大所では、社員が書くことがあるのかしら、と思ったことでした。映画にもなるようですね。