英国王のスピーチ | パパ・パパゲーノ

英国王のスピーチ

 今年のアカデミー賞4部門を受賞した作品。コリン・ファース(『真珠の首飾りの少女』でフェルメールに扮した俳優)が、ジョージ6世にさせられてしまう。「させられて」というのは、ジョージ5世の死後、長子エドワード8世が即位しますが、この王様は、アメリカ人のウォリス・シンプソン夫人(2度の離婚暦がある)と結婚するために退位してしまい(離婚暦のある女性は王の妻になれないそうで)、お鉢が弟のヨーク公にまわってきたからです。


 この弟君は、吃音に悩んでいる。映画で初めて知ったことですがX脚のコンプレックスもあったそうです。


 シンプソン夫人スキャンダルと、ヨーク公の吃音は、英国の大人ならおそらく誰もが知っていることです。


 映画は、吃音矯正のコンサルタント、ライオネル・ローグとヨーク公との対立・緊張・和解・協働をめぐる、すさまじい心理的格闘を中心に展開します。舞台劇を映像にしたかのごとき白熱した台詞のやりとりが圧巻でした。オスカーの脚本賞受賞もうなづけます。


 ライオネルを演じたのが、ジェフリー・ラッシュ(『シャイン』でアカデミー主演男優賞受賞)です。このたびも、助演男優賞にノミネートされていましたが、逃しました。


 ジョージ6世の奥方が、ヘレナ・ボナム・カーター(『眺めのいい部屋』の少女役)。控えめながら着実に夫の支えになっている役を淡々と演じ切りました。二人の間に二人の娘がいます。エリザベスとマーガレット。このエリザベスが現在のイギリス女王ですね。


 ラッシュとカーターふたりの脇役が素晴らしい。もちろん主役のファースの、激情と意気消沈との落差のはげしい性格描写が光りました。


 吃音矯正のレッスンの初めに、本を渡されてここを読みなさいと指示されます。レコードからヘッドホンで音楽が流れ、読んだ言葉が別のレコードに記録される。このときヘッドホンから流れたのが『フィガロの結婚』の序曲。録音されたテキストは、シェイクスピアでした。


To be, or not to be, that is the question:
Whether 'tis nobler in the mind to suffer


 ハムレットの独白です。吃音というのは、激怒したり、歌ったり、独り言を言ったりなどでは出ないもののようです。この台詞の朗読も、つっかえることなく進んでいました。


 1939年、ドイツとの戦争に入ることをラジオで告げる演説が最後に登場します。これがタイトルになった The King's Speech です。格調の高いスピーチの間じゅう、バックに流れた音楽がベートーヴェンの交響曲第7番第2楽章でした。戦争相手国の大作曲家の荘厳な調べをバックミュージックとして使ったところに興味を惹かれました。おしまいのタイトル・ロールに流れたのがモーツァルトのクラリネット協奏曲の第1楽章。この映画オリジナルの音楽は、ピアノ・ソロの素直な曲が多いように感じました。


 おそるべしイギリスの底力、と言いたくなる傑作です。

グッド!        グッド!        グッド!        グッド!        グッド!