上から目線
「視線」と言えば、「物を見ている方向;目の向く方」のことを指します。もうひとつ、「眼球の中心点と見ている対象を結ぶ線」という「物理学的な」意味でも使われますね。「視線をそらす」という場合の「視線」は、前のほうの意味。
「目線(めせん)」という語彙は、おそらく舞台(や映画・テレビドラマ)などで使われてきたジャーゴン(仲間うちの用語)が一般化したものだろうと思います。意味は「視線」と同じだったはずですが、言いやすい、聞くときに誤解がない、などの理由で採用されたのでしょう、おそらく。
「上から目線」という言い方も、ずいぶん聞くようになりました。「聞き手を見下すような視線」という意味でしょうが、人を非難する場合に主に使われるのは周知の通りです。しかしながら、仰ぎ見るような、「リスペクト」のまなざしを、「下から目線」とは、まあ言わないし――言うとすれば「卑屈」の傾きが強くなりそうです――、これからもその言い方が出てくるとは考えにくい。
「棚からぼた餅」のように、「棚からぼた餅が落ちてきたような」思いがけない幸運を指す省略語句はありますが、「上から+目線」で完結している造語法が面白いと思います。「藪から棒」がやや似た表現でしょうか。これだって、「藪から(いきなり)棒を突き出すように」という意味の省略語句です。
「目線」のニュートラルな使い方には、「消費者目線」とか、「女の子目線」とかがあるようです。視線に代わる造語成分になってしまったもののようです。
「め」が訓読みで、「せん」が音読みですから、これはいわゆる「湯桶(ゆとう)読み」になっています。逆の場合が「重箱(じゅうばこ)読み」。新語を作るときは、できるだけ、読みの交差を避けた方が、広い理解に応えるはずですが、使用が拡大するときには、そんなことにはかまっていられません。
書きぶりからご想像がつくでしょうが、私はこの「目線」という語は使いません。言い方が二つ(以上)ある場合は、古い方を使いたいと考えているからです。
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