認知症 | パパ・パパゲーノ

認知症

 認知症と言っても病状のことではありません。命名がヘンだと思ってきました。2004年に厚生労働省が、行政用語として「痴呆」に替えて「認知症」にすることにしたのだそうです。ウィキペディアには、


 国民の人気投票では「認知障害」がトップであったが、従来の医学上の「認知障害」と区別できなくなるため、この呼称は見送られた。……厚生労働省老健局は同日(12月24日)付で行政用語を変更し、「老発第1224001号」により老健局長名で自治体や関係学会などに「認知症(にんちしょう)」を使用する旨の協力依頼の通知を出した。関連する法律上の条文は、2005年の通常国会で介護保険法の改正により行われた。


とあります。厚生労働省に「老健局」という局があるなんて初めて知りました。これが正式な名称なんですね。「保険局」「年金局」などと同格の組織。


 関係学会(心理学会、認知科学会、など)は、「認知症」とすることに対して、連名で反対意見書を提出したらしい。「痴呆」という言葉が差別的だという意見があって、専門家会議を開いて、その答申に基づいて名称変更したようです。今では、日本語を話す人なら知らぬもののない単語に昇格しました。ただし、国語辞書にこの見出し語はまだないようです。パソコンについているワープロソフトもまだ「にんちしょう」と入れても漢字には変換されません。


 cognitive という英単語の訳語として「認知的・認知上の」というのは、ごくありふれた言葉でした。認識・知覚などの意味もあるようです。「父親が子どもを自分の子だと認知する」という場合の「認知」もありますね。英語では acknowledge と言うらしい。


 「認知能力に欠けるところがある状態におちいった」という意味で「認知症」ということになったのでしょうが、無理な命名であったと思います。「耄碌(もうろく)」とか「呆ける」とか、昔から言いならわしてきたものを、病名としては「痴呆(症)」と呼んでいたものです。


 失語症・脳軟化症・尿毒症・拒食症・蓄膿症など、「~症」と付く熟語は、みな、「~である症状」のことを指しますね。原爆症の場合は「原爆の被爆が原因となって出る症状」、「ムチ打ち症」も「首がムチ打ち状態になった結果の症状」であるように、同格・因果の関係が分かる造語です。「認知症」は、どちらでもないところが無理だと感じられる理由です。


 もはや定着した言葉ですから、「認知症」という表現でいくことにはなるでしょうけれど。言葉の言い換えを、アンケートや委員会で決めるのはやめてもらいたいと私は思います。


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