眺めのいい部屋 | パパ・パパゲーノ

眺めのいい部屋

 ムービープラスというケーブル・テレビが流す映画チャンネルで、『眺めのいい部屋』を見ました。3度目くらいか。E・M・フォースターの原作。この人の小説はなにひとつ読んだことがありませんが、映画化された作品はたいてい全部見ています。『インドへの道』『ハワーズエンド』『モーリス』、どれも、話の骨格がきちんとしているので、安心して物語に入っていけます。


 『眺めのいい部屋』は、イギリス貴族(だと思う)の娘がシャプロン(付き添いの夫人)を伴って、フィレンツェに旅行する、その旅先のホテルで、やはりイギリス人の父と息子から、「眺めのいい部屋」を譲ってもらうところから話が始まります。この父子は、おそらく階級が下であろうと思われる。「眺めがいい」というのは、ホテルの部屋から、ドゥオーモやヴェッキオ宮殿の建物が見える、ことのようです。


 1985年の作品ですが、封切当時に見た記憶はありません。時代設定は、20世紀初頭。ポンテ・ヴェッキオも、シニョーリア広場も、アルノ川も、みんな出てきました。自分で歩いたことのある場所が映画の場面に出てくると、親近感がいやましに増えますね。


 マギー・スミス、ジュディ・デンチ、ダニエル・デイ=ルイスなど、錚々たる配役だったのでした。主人公のルーシーは、ヘレナ・ボナム・カーターが演じます。新作の『アリス・イン・ワンダーランド』で赤の女王に扮しているようです。当時は、20歳そこそこ、主人公の年齢と同じくらい。


 話は、貴族の婚約者(デイ=ルイス)を振って、別の男(フィレンツェで会った)と結婚するにいたるまでを、丁寧な心理描写とともに描き出したものです。


 久しぶりに見直して気がついたのですが、ひとりの女が、どのようにして官能に目覚めるか、というメッセージが、あからさまではないけれど込められていたのでした。そう言えば、『インドへの道』にも、そういう含みがあったのを思い出します。『モーリス』は、ずばり、(男の)性を主題にした物語でした。


 原作者のフォースターは、1970年に91歳で没したようです。


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