高峰秀子 | パパ・パパゲーノ

高峰秀子

 斎藤明美『高峰秀子の流儀』(新潮社)を読みました。『二十四の瞳』『喜びも悲しみも幾年月』『カルメン故郷へ帰る』などの主演女優の生き方を書いた本。高峰秀子は、昭和初年に生まれたようで、昭和の年号と年齢とが同じなのですね。昭和50年の年に『週刊朝日』の扇谷正造編集長が、記念企画として、50歳の有名人を口説いてエッセイを書かせました。のちに『わたしの渡世日記』という上下本になりました。連載当時に読んで、切れ味するどい文章で、係累をたくさんかかえて奮闘する苦労(という風には書いていなかったけれど)に、女優も大変なんだなあ、という感想を抱いたことを思い出しました。55歳で、まったく引退してしまったようです。現在、85歳。


 著者の斎藤さんは、『週刊文春』の契約ライターを長く務めた人だそうですが、松山善三・高峰秀子夫妻を「とうちゃん・かあちゃん」と呼んで、松山家の、まるで娘のように振る舞っている様子が文章から伝わってきます。


 この本に結実した文章も、雑誌『婦人画報』に連載したもののようです。現在も、同じ雑誌に「高峰秀子と仕事」という連載を続けているそうです。不世出の女優の生き方を、後に続く人々に伝えずにおくものか、という気迫に満ちています。高峰さんは、なんと言っても、普段の生活が素敵です。章のタイトルが、「動じない」「求めない」「期待しない」「怠らない」「こだわらない」など、みんな否定形の語がつけられていますが、余計なもの・しがらみをそぎ落として生きてきた、ということを伝えるのによく選ばれたタイトルだと感心しました。


 5歳から映画に出ているので、学校教育をほとんど受けていないのですね。新婚時代のエピソードに心を揺さぶられました。


《まだ新婚のころ、妻はやたらと新聞や雑誌をひっくり返して何かを“探して”いたそうだ。
「何をしてるの?」
妻は答えた、
「字を探してるの」
夫は驚いた。三十一歳の新妻は辞書の引き方を知らず、読めない字がある時は、別の媒体でその同じ字を探して、読み方を知ろうとしていたのだ。
「とうちゃんが、中学時代に使ってた辞書をくれたの。それで引き方を教えてくれたのよ」》


 85歳になる今も、毎日、「食べる」ように本を読んでいるのだそうです。よい本を読んで、こちらも幸せな気持ちになりました。


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