男のポケット | パパ・パパゲーノ

男のポケット

 丸谷才一に『男のポケット』というエッセイ集(新潮文庫)があります。背広のポケットのことを含意していたはずで、男はそこにいろいろな、まあ、ガラクタを入れてあり、それを取り出してご覧に供する、とご自分の作品を謙遜してつけたタイトルでしょう。実際は、いつものように、博覧強記の文章が並んでいました。ドラえもんの「どこでもドア」というのは子ども(とくに男の子)の夢を上手に視覚化したものだと思いますが、丸谷先生における「ポケット」は、歴史上と地球上とを変幻自在に飛び回ることのできる入り口、いわば「大人のどこでもドア」みたいなもんです。


 小学校高学年からだったか、いわゆる「学ラン」という制服のような黒い服を着るのでした。中学生になると詰襟になる。セルロイドのカラーにヒビが入って、首筋に傷をつけたりしたものです。セーラー服はどうだったか覚えていませんが、この、「学生服」には、上着にたしか5カ所のポケットが付いていたはずです。胸と、両脇と、左右の内ポケット。ズボンにも4つ。


 背広を着るようになってからも、上下の揃いでなくとも、たいてい、ポケットがたくさん付いていました。タバコを吸いはじめてからは、左の内ポケットがライターとタバコの箱の専用になった。ポケットチーフの入るべき胸ポケットは定期入れの場所。右脇のポケットには鍵とか一時的に買った切符とか。左にはティッシュとか、その時その時の備忘用メモ。ズボンのポケットにもそれぞれ役割がありました。


 ジャケットを買いに行って、うっかり見た目のデザインだけで選んでしまい、ポケットが2つ足りない仕立てだったりすることがあります。右の内ポケットが付いていないのが大いに困る。


 軍用ズボン仕立てというのか、厚手の生地でできたダップリしたズボンを履いている若者を見かけることがあります。大ぶりのポケットがたくさん付いていて、見るともなく見ていると、じつにさまざまなものを取り出していますね。一度でいいからああいうズボンを履いてみたい。といっても、文庫本くらいしか入れるものはありませんけれど。


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