孤高―国語学者大野晋の生涯
川村二郎著『孤高――国語学者大野晋の生涯』(東京書籍、四六判、1,785円)を読みました。大筋は、大野先生の自著『日本語と私』(新潮文庫)の記述によりながら、88歳まで長命し、去年7月に亡くなった、この碩学の風貌をよく伝えています。
本居宣長が、友人の妹、民(たみ)を妻に迎えるエピソードはこの本にも出てきます。民さんはいったん、別の男のもとに嫁したのですが、ほどなく死別します。宣長は、それを知ると、すでに結納を交わしていた美可さんとの婚約を破棄して、民さんと一緒になります。これを、大野先生は、宣長ゆかりのお寺の過去帳を徹底調査して調べあげたのだそうです。『日本語と私』では、調査の過程については書いていなかったと思います。それよりも、再婚という事態についての言及に、先生ご自身の体験が反映されているような、微妙な筆使いだったのが印象的でした。本書では、その体験には、ほんの少し触れているだけでした。
大野先生の評伝ですから、日本語の古典がたくさん出てきます。「日本書紀」の書名があちこちで「日本書記」と誤記されて(書紀となっているところもある)いるのが、目ざわりでした。他にも、「教育漢字」とあるべきところが「教育漢学」となっていたり、よほど急いで作ったものでしょうか、校正に徹底を欠いているところが見受けられます。「瞬間湯沸かし器」と恐れられた大野先生の、カミナリが落ちるのではないかと心配しました。
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