純白 | パパ・パパゲーノ

純白

 90歳を過ぎてから白内障の手術を受けた伯母が、そのときのことをこんなふうに言っていました。手術の前から入院して横になっていたベッドのシーツは、黄色みがかった色だと思い込んでいたのだそうです。クリーム・イエローとでも言うのか。眼帯をはずした途端、天井のシミまでくっきり見えたのにまずびっくりした。そうして、さっきまで寝ていたシーツが、黄色ではなくて純白だったのには感動してしまった。「じゅんぱく」という単語が、こんなに響きよく喜びに満ちて発音されたのを聞いたのは初めてと言ってもいいくらいです。そのあざやかな白さが目に見えるようでした。


 白内障は、水晶体(水65%、蛋白質35%)の蛋白質の変性によって、レンズの機能が低下する病気。つい最近も、知り合い(60歳くらい)が手術をしました。「見たくないものまで見えてしまう」と言ってましたが、見えるようになったことを、それは喜んでいました。この病気の手術を受ける人もずいぶん増えています。


 伯母の話を聞いているときに、庭をセキレイがピョンピョン跳びながら横切っていきました。それで思い出した昔の話をしてくれました。


 巣から落ちてしまった雀の雛を見つけたので、抱いて家に連れ帰り、エサや水をやって育てたのだそうです。家の中を駆けずりまわり、柱を伝い登るほど元気になった。どんどん成長して飛べるようになったころ、フッと姿を消してしまった。親鳥の元へ帰ってしまったのか、それとも災難にでもあったのか、と気をもんでいたところ、2日後くらい、草むしりをしていたら、左肩の上にチョンと乗ったものがある。それがその雀。40年か50年も前のことだろうと思いますが、そう言って目を細めました。可憐な小鳥の姿が彷彿としました。96歳になった今も、よく見える大きな目でこちらを見つめ、シャキシャキと言葉を繰り出す素敵なおばあさんです。


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