蕪村俳句集 | パパ・パパゲーノ

蕪村俳句集

 本棚で別の本を探していたら、奥から『蕪村俳句集』(岩波文庫、尾形仂〔つとむ〕校注、1989年)が出てきました。学生の頃に読んだ文庫本も、岩波だったと思いますが、注をつけた先生は別だったかもしれません。


 若い頃に読んだ記憶では、蕪村というのは絵を描くように句を作る人だ、という印象でした。俳画をよくした人だということをどこかで読んで、それに影響されてそんなことを思ったのでしょう。


 この新しい文庫が出たころ、同僚から俳句の面白さを教えられて、それで購入したのだったか。いつかも引用しましたが、


 斧入れて香(か)におどろくや冬こだち


の凛然たる句柄にしびれました。


 久しぶりに目にした蕪村は、古典(漢文)を本歌どりした句もたくさん作っているのでした。脚注に知らない典籍の名前がたくさん出てきます。夏の句から、いくつか拾っておきます。



夕風や水青鷺の脛(はぎ)を打つ


不二ひとつうづみ残してわかばかな


さみだれや大河を前に家二軒


学問は尻からぬけるほたる哉


 最後の句は、今まで蕪村の作品だと知らずにきました。「蛍雪之功」という熟語の元になった話が典拠になっているんですって。秀才の車胤(しゃいん)という若者が、貧しくて灯油が買えないので、蛍を集めてその光で読書したという故事を踏まえた一句なのだそうです。「雪」の明かりで本を読んだのは孫康という人。


「尻から抜ける」は「すぐ忘れる」ということのようですから、この一句は、勉学に励む人(蕪村自身を指すのかな)への、いましめの言葉のようです。「一書生の閑窓に書す」という「詞書き」が添えてあります。