グラン・トリノ
もとフォードの生産ラインで働き、今は引退してデトロイト近郊の町に暮らしているウォルト・コワルスキーという老人をクリント・イーストウッド自らが演じます。名前を聞くとアメリカ人ならすぐ分かるようですが、ポーランド系移民の子孫です。朝鮮戦争に従軍して、無意味な殺人をしてしまった、そのことを思い出さない日はないとつぶやくシーンがあります。
1972年の大型スポーツ車「グラン・トリノ」が彼の宝物で、ピカピカに磨き上げて、いつでも走れるようになっています。このエンジンの部分あたりを俺が作ったと言っていました。
隣に住んでいるのは、ラオスから移住してきたモン族の家族です。中国にもいる少数民族なのだそうです。中国での民族名はミャオ(苗)族と言うようです。隣の家の、スーという賢そうな姉と、タオという(畑仕事が好きでモン族の不良たちから女みたいだと軽蔑される)弟、の二人と、ウォルトが、その意に反して、深く付き合うことになります。
いつも行く床屋がイタリア人、タオに仕事を紹介してもらう建設現場の親方がアイルランド人で、住んでいる街はカトリックの信者が多いのですね。ウォルトの妻の葬式の場面から映画は始まりますが、若い神父が司式しています。この神父も重要な役回りを演じます。
モン族のギャングたち(そのうちの一人はタオの従兄弟)に散々悪さをされ、あげく姉のスーはレイプまでされる。復讐の段取りをウォルトが慎重に考えてやります。思いがけない終幕が用意されていました。
必要最小限のエピソードだけを積み重ね、それらがすべて一つの結末に収斂していくストーリーテリングのうまさは、この映画でも躍如としていました。クリント・イーストウッドは、監督としても映画殿堂の最上席に坐るべき人です。
折しも、リー・アイアコッカの自伝『アイアコッカ』がゴマ文庫から再刊されました。最盛期のフォード社の社長を務め、フォード2世にクビにされ、(競争相手の)クライスラーの社長になって復讐を果たした、という人です。これもおすすめの一冊です。それこそ、この人の伝記を映画にしたら面白いと思いますが、そういう企ては聞いたことがありません。
![]()