東大駒場学派物語
ついこの間まで、ご当人のブログで連載していたものが、もう本になりました。小谷野敦著『東大駒場学派物語』(新書館、1800円)。
東京大学教養学部は目黒区駒場にあるので、「本郷」(教養学部以外の学部がある文京区の地名)に対して「駒場」と呼び習わす。「駒場学派」というのは、そこにある「比較文学比較文化」という研究室を中心とし、そこを卒業して学者になった人々(ならなくてもそこに帰属意識を持つ人々)を指すもののようです。学派とは言っても、学問の方向や、思想の傾向がみんな一緒ということではありません。
芳賀徹、平川祐弘、小堀桂一郎、亀井俊介など、錚々たる先生方が、そこを卒業してそこの先生になった。卒業生も、多士済々です。もちろん小谷野さんも、本郷の英文科を出て、大学院はそこを卒業しています。博士号もそこで得ています。
おびただしい人名が現れて、著した本が列記され、どんな賞をもらったか、くわしく書かれています。さらに、卒業生たちが、なんという大学に職を得ていったかも。
小谷野さん自身は、この本が35冊目になるという多作の書き手ですが、この春、教えていた駒場から去ることになったらしい。非常勤講師のままだったようです。
ついに大学教授になることをあきらめたのでしょうか、恨み節になっても無理はないところなのに、読後の印象はさっぱりしたものです。(もっとも、小谷野さんは、かつて、大阪大学で助教授をなさっていたことがあります。)錯綜する人間関係を、ここまでわかりやすく叙述する手腕は並大抵のものではありません。
「あとがき」に、「大学というものの理不尽さを描いたもの」という表現が出てきます。それはよく伝わってきました。理不尽なのは、しかし、大学ばかりではありませんけれど。
少し前に『里見(さとみ)弴(とん)伝』(中央公論新社)を出しましたが(こちらは未読)、本書の奥付のふりがなも「こやの・とん」になっています。本名の読み(あつし)も注記してありますが。
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