厩火事
「厩火事」という落語があります。髪結いのお崎さんが、亭主とけんかをして、仲人をしてくれた人のところへ乗り込んで、「今日という今日は、愛想も小想も尽きはてた」と言いつのるところから始まります。じつは、このお崎さん、亭主よりも年がだいぶ上だという設定です。
なぜ、「厩火事」というタイトルかというと、『論語』の「第十 郷党(きょうとう)編」の、ごく短い一句を、いわば「引用」して、亭主を試してごらん、と知恵を授けるところから、この名がついた。
厩(うまや)焚(や)けたり。子(し)、朝(ちょう)より退いて曰く、
人を傷(きずつ)くるか、と。馬を問わず。
《うまやが火事で焼けた。孔子は勤めから帰ってきて言った。
誰も怪我しなかったか、と。馬のことは聞かなかった。》
旦那が大切にしている皿をわざと割ってごらん。お前に惚れてるなら、どこか怪我をしなかったか、と聞くはずだ。孔子様が馬のことを聞かなかったように。もし、こわした皿のほうを心配するようなら、そのときは別れてしまえ。
皿の割れる音を聞きつけた亭主が、「おい、怪我はなかったかい?」と聞くので、お崎さんよろこんで、「おまえさん、そんなにあたしの体が大事かい?」「あたりまえだよ。お前に怪我されてみな。明日から遊んでて酒が飲めない。」
俗に「髪結いの亭主」ということを言いますが、その代表のような噺です。
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