ユーモア
小林信彦『名人 志ん生、そして志ん朝』という本は、朝日選書で出たときに読んだはずですが、文春文庫の棚で見かけたので再読しました。2007年に文庫に入ったようです。
好きなユーモアの例として、江國滋『続読書日記』のあとがきを引用してあります。
〈読書家でもないくせに「読書日記」とは厚かましい、という風には考えない。〉
と、やや居丈高に出た著者は、さりげなく、次のようにつけ加える。
〈蕎麦屋の娘でもないくせに「更級日記」を名乗った先例もある。〉
江國滋(1934-97)は、エッセイストとして軽妙な文章を発表していました。作家、江國香織さんの父上です。がんで亡くなりました。享年63はいかにも若い。医者に「あなた、タバコをやめないと死にますよ」と言われて、「そうか、タバコをやめると死なないのか」と頭の中で反論したなどと屁理屈を書いたこともあります。
小林信彦のこの本には、「落語・言葉・漱石」という章があり、漱石が作品のなかで、いかに落語を取り入れたかが論じられています。『吾輩は猫である』に、こういう一節があると紹介されています。そういえば、大昔に読んだことがあるのを思い出しました。
〈吾輩〉が惚れている三毛子との会話の中で、三毛子の飼主である二絃琴の師匠のもとの身分は、次のように説明される。
「へえ元は何だったんです」
「何でも天璋院様の御祐筆の妹の御嫁に行った先きの御っかさんの甥の娘なんだって」
「何ですって?」
「あの天璋院様の御祐筆の妹の御嫁に行った……」
落語「たらちね」を彷彿させるやりとりです。
副題が「志ん生、そして志ん朝」となっていますが、志ん朝さんが2001年10月1日に亡くなったのを惜しむ、心に沁み入る文章が中心になった本です。友だちが貸してくれた、志ん朝さんの「大工調べ」を聞きながら書きました。噺のテンポのよいことといったらありません。
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