河村重治郎
河村重治郎(かわむら・じゅうじろう:1887-1974)という英語の先生がいました。田島伸悟著『英語名人 河村重治郎』という本が三省堂から1994年に出版されました。今は絶版のようです。一読して、深い感銘にとらえられた記憶があります。
秋田市に明治20年に生まれた人ですが、秋田中学を家庭の都合で中退せざるをえず、検定試験を通って福井中学の英語の先生をしながら、辞書の研究・執筆に没頭します。88歳の生涯を、英語辞書にささげた立派な先生です。戦後、横浜国立大学ができたときに、そこの教授になったようです。
三省堂から初学者向けの親切な辞書『初級クラウン英和辞典』ほかを出版し、同社の英語教科書のシリーズの著者でもありました。
辞書編集者としての河村先生の真骨頂は、『研究社 新英和大辞典』の編集・執筆に発揮されたと思います。いま、同辞典は、第6版が行われていますが、日本の英和辞典の文字通り最高峰の業績です。
河村先生は、この大辞典の第3版から参加なさったようです。私どもが使い始めたころは第4版だったでしょうか。編者として、市河三喜(いちかわ・さんき)東京大学教授、岩崎民平(いわさき・たみへい)東京外国語大学教授、そして河村重治郎の名前が出ていました。大辞典の「序文」に3人の先生がそれぞれ署名入りの記事を書いていました。河村先生のそれは、よく読むと、前2者に対する不平・不満が伝わってくる文章でした。大事業をなすには、何人もの人々の協力が不可欠でしょうが、しばしば、方針の対立が起きるものです。今では、古書店か図書館でしか見ることができませんが、この先生の名前が表紙に出ている大辞典の「序文」だけでもお読みになってみてください。
『英語名人 河村重治郎』というのが絶版なのは惜しい。私の手元にも今はありません。講談社学術文庫あたりで出さないかしら。この本を書いた田島先生は、河村先生が残した学習辞書の改訂版を編集なさった方のようです。
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