観光案内としての映画
映画『ダヴィンチ・コード』は(小説もそうでしたが)、パリのルーブル博物館の地階で夜ふけに美術館長の死体が発見されるところから始まります。当日の午後、美術史の講演をしたアメリカ人ラングドン教授(トム・ハンクス)が、知らせを聞いて現場に駆けつけますが、すでに容疑者と見なされていました。警察の目をかいくぐって、車で逃走する。フランスの捜査官に扮したのがジャン・レノ。
いろいろな展開の末、大団円はロンドンのセント・ジェームズ・パーク(バッキンガム宮殿を背にして前方の、だだっ広い公園)です。
ルーブルも、セント・ジェームズも、現場撮影でしたから、行ったことのある人は、おお、あそこだあそこだ、と言いながら映画を見て、スクリーンの中にいるような錯覚を持つことができます。映画を見てから、現地におもむく人も、あのシーンはここだったのか、と確認することになります。
それの、もっとも成功した例が、『ローマの休日』でしょう。「真実の口」に、グレゴリー・ペックが手を突っ込んで、抜き出したらゲンコに握っていて、びっくりしたオードリー・ヘップバーンがペックの胸を軽く打つシーンの印象は、何十年前に見たのに、いまだに新鮮です。現地に行って見ると、どうということもないほこらみたいなところでした。それでも、この場所にあのオードリーもいたのだ、という共有感覚を味わうのは、いい気持ちのものでした。トレビの泉もスペイン階段も、この映画がなければ、今ほど観光客でごったがえすということはなかったのではないかしら。
日本映画で、観光案内を大がかりにやったのは、なんと言っても『男はつらいよ』のシリーズでしょうね。寅さんとリリーがしみじみ語った海辺の岩をテレビで見たことがありますが、近くへ行ったら、ちょっと寄ってみたくなりますものね。
東京も、見どころいっぱいの観光地という側面があります。アン王女とまで行かなくとも、素敵な美女が恋に落ちて、皇居の東御苑あたりでデートするシーン(我ながら発想が陳腐でいやになるけど)を含む、面白い映画を、どなたか作ってくれませんかね。
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