シャドー81
1977年に、単行本ではなく、いきなり新潮文庫で刊行されて、その年の『週刊文春』ミステリ1位に輝いた、ルシアン・ネイハム『シャドー81』(81は英語読みにしてエイティー・ワンと呼んでいた)が、去年秋に、ハヤカワ文庫(NV1180)から復刊されました。訳者は新潮文庫のときと同じ中野圭二という人。もう30年も前に読んだので、細部はみんな忘れていました。再読してみて、うなるしかない傑作であることを再認識しました。
ロサンゼルスからハワイへ向けて飛び立ったボーイング747がハイジャックされる。ハイジャッカーは機内にはいない。なんとジェット戦闘機で、ジャンボのすぐ後方を飛んでいるのです。法外な要求(2千万ドル相当の金の延べ棒を指定した場所に運べ)を突きつけて、聞かなければ、200人以上の乗員・乗客もろともジャンボを爆撃すると脅します。
管制塔、軍、FBI、ホワイトハウスあげて、てんやわんやの対応を迫られます。時代は、パリでベトナム戦争の和平会議がまとまりそうになってまとまらず、何度目かの北爆(北ベトナム爆撃)が繰り返されたころ。
戦闘機をどこでどうやって奪い、それをカリフォルニアの近くまで、レーダーにとらえられることなく飛ばすにはどうするか、知恵をしぼって計画したらしい下手人は一人か二人か、もっと多いか。480ページほどの訳書の先を読むのが待ちきれなくなる面白さです。こういう本を英語で page turner (ページ・ターナー:ページをめくらせるようなしろもの)と呼ぶようです。
ネイハムはこの1作を残しただけで、1983年に亡くなったそうです。ケン・フォレットやブライアン・フリーマントルやジャック・ヒギンズにもヒケをとらない書き手だと、次作を期待して待っていたのですが残念なことでした。
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