ズブロフカ
日本語ではズブロッカという表記で知られますが、ロシア語で(おそらくポーランド語でも)zubrowka のように綴られるはずなので、私はズブロフカと発音したいところです。そういう名前のお酒です。
ズブロフカというのは、バイソングラスという、ヨーロッパ・バイソンが好む草の名前。その草を干したもの(というか、おそらくバイソンが食べ残して立ち枯れた草だと思う)を、ウォトカ(ウォッカ)に入れると、ズブロフカ特有のよい香りが移って旨い酒になります。ウォトカは、おもに麦から作られる蒸留酒、スラブの麦焼酎ですね。アルコール度数の高い強い酒です。
むかし、満洲国というものがあったころ、ハルピン市にハルピン学院という日本人学生が中心の学校があって、その学校の守衛をしていた方だと思いますが、戦後になって引き上げてきた、テラモトさんという人から、その干草を分けていただいたことがありました。今から、30年くらい前。そのころ、《モスコフスカヤ》とか、《スタリチナヤ》とか、ソ連産のウォトカが日本でも安く手に入りました。安いのに他のウォトカより味わいがよかった。(このふたつのウォトカは今でも酒屋さんで売っていますが、ずいぶん高くなっています。)それをよく飲んでいたころなので、しばらく、ズブロフカ(入りのウォトカ)を楽しみました。
ハルピンにはたくさんのロシア人がいたそうで、テラモトさんは、現地でロシア人の奥さんとのあいだに二人のお嬢さんをもうけたとおっしゃっていました。むろん、ロシア語もおできになった。負けた国に連れて帰ることができなかったらしく、別れて帰国したのだそうです。いただいたズブロフカ(の干草)は、モスクワだかで所帯を持っているお嬢さんのお一人が送ってくれたものだということでした。
毎晩、麦焼酎を飲みながら、ときどきズブロフカが飲みたくなって、その連想で、テラモトさんのことを思い出します。ずいぶん長いことお会いしていませんが、初めてお目にかかったときにすでにいいお年でしたから、再会があるとすれば、次の世でということになります。
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