マノン・レスコー
マスネーのオペラ『マノン』、プッチーニのオペラ『マノン・レスコー』は、両方ともフランス18世紀の作家、アベ・プレヴォ(1697-1763)の『マノン・レスコー』を原作としています。それは知っていましたが、原作小説をまだ読んでいなかったので、河盛好蔵(かわもり・よしぞう)訳の岩波文庫を読みました。昭和4年に訳したものだそうで(あとで改訳)、文体は古風ですが、それが効果を発揮しています。新潮文庫(青柳瑞穂訳)にも入っています。新書館から石井洋二郎訳でも出ているらしい。
シュヴァリエ・デ・グリユーと呼ばれる、裕福な家の、賢い17歳の青年が、アミアンでの勉学を終えて、生まれ故郷へ帰る日、若い娼婦(だとは明記されていないけれど行間から分かる)に一瞬にして恋に落ちるところから話が始まります。その美少女の名前がマノン・レスコーです。16歳。シュヴァリエというのは、小説の中で、この男を指す名前ですが、両親が早々と「グリユーの騎士(シュヴァリエ)」と名づけてくれた、と最初のほうに出てきます。
マノンは、この青年の求愛を受け入れるのですが、まあ、要するに金のかかる女なのですね、当人はそうも感じてないらしいけれど。シュヴァリエは、父親が死んだら相応の遺産も受け取れるのですが、とりあえず彼女を養うのにさんざんな苦労を強いられます。マノンに3度裏切られても、そのたびに「愛しているのはあなただけ」と泣きつかれると、ゆるしてしまいます。そう告白するときのマノンの心情に偽りはないのです。翻弄が繰り返されたあげく、マノンのほうがフランスにいられなくなって、ヌーヴェ・ロルレアン(ニューオーリーンズ)に流されます。そのころは、ルイジアナはフランスの植民地でした。シュヴァリエも一緒にアメリカに付いていきます。アメリカでも大変な目にあって、ふたりで砂漠へ逃げていく。疲労の末に、途中でマノンが死んでしまう。
「恋よ、恋よ、お前は永久に智慧とは融和しないのだろうか」と、シュヴァリエの操行にあきれた裁判官が嘆くシーンがありました。
知らなかったけれど、マノン・レスコーが「ファム・ファタル
(運命の女)」という主題のはしりなのだそうです。読んでいても憎めない女です、たしかに。もうひとつ、「聖化された娼婦」という人物像も、文学史にたくさん出てきますが、その典型とも読めます。遠くマグダラのマリアに淵源を持つキャラクターなのでしょうね。
映画『情婦マノン』も原作はこの作品だそうです。烏丸せつこ主演の『マノン』も。
![]()