夢の中へ
若いころからよく夢を見ました。目覚めても内容を記憶していることが多いので、朝になって、夢の中身の辻褄の合わなさに呆然とすることもしばしばでした。夢を見ているさいちゅうは、リアルな感覚がありますから、怖い夢のときなど、心からおびえていたりします。崖の棚状の場所に下側から上って行かなければ谷底へ落ちてしまう、このタイプの怖い夢を何種類も見ましたね。分析医にかかれば、なにか答えが見つかるのかも知れませんけれど。
まことに、ネルヴァルという詩人の言う通り、「夢は第二の人生である」ようです、私の場合。楽しみも2倍あるのならいいけれど、そう都合よくは運びません。
漱石に「夢十夜」という作品があります。第一夜は「こんな夢を見た。」と始まる。たしかに、夢でしか起きないようなことが書かれています。あっという間に百年が経っていたりする。黒澤明監督にも「こんな夢を見た」とナレーションが入るオムニバス映画(『夢』)がありました。トンネルの中を行軍する軍隊の靴音と、雛人形の装束をまとった公家たちとお姫様・官女たちが桃の花の咲く、ひな壇状の丘に並ぶ様子しか覚えていません。他人の夢の話というのは、聞かされても面白いものではないな、というのが、この二つの作品の感想です。
将来の願いも「夢」と言いますね。「ぼくの夢は宇宙飛行士になることだ」というふうに。英語のドリームというのも、同じように二つの意味があるようです。「ドリームズ カム トゥルー」というときのドリーム。なぜそうなるのか不思議です。
井上陽水に『夢の中へ』という歌がありました。「夢の中へ 夢の中へ 行ってみたいと思いませんか ウフッフー」というの。メロディーは好きですが、「俺なんか毎日行ってるけどなあ。そう言われてもなあ」と思ってしまいます。ABBAにも I have a dream という、バラードのきれいな曲があります。
なんだか、夢のようにとりとめもない話になりました。
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