混浴の温泉 | パパ・パパゲーノ

混浴の温泉

 山崎まゆみ『だから混浴はやめられない』(新潮新書)という本が出ました。オビに著者の入浴写真(タオル巻き、もちろん)が印刷してあって、「ご一緒しませんか。」と誘っています。きれいなひとです。ほんとに「ご一緒」してくれるのかしらね。
 
 今でも全国各地に、混浴の温泉があって、若い女も入っているのだそうです。本書の著者も若い。一緒に入った老人(男)から「冥土の土産になった」と、(ずいぶん古風な)感謝のことばをかけられたことも書いてあります。
 
 最初に風呂の扉を開けるときの抵抗感を克服できれば、あとはすんなりいける、という具合に、女が混浴に入る際の困難除去のあれこれを語りながら、その楽しさにいざなっています。温泉旅館(の場合をたくさん紹介してある;ほかに温泉場の共同浴場など)の、おかみさんの気遣いが、スムーズな入浴に導いている例なども、共感とともに記述されています。無礼な男客を一喝したことも(無論、着衣に戻ってから)。
 
 学生のころ、混浴の温泉ばかりを訪ねたことを思い出しました。一人旅です。本書には出てこない温泉にもいくつか入りました。なん十年も行ったことがないので、いまでも混浴のお風呂があるかないか、はっきりしませんが(ネットで調べても、そのことは書いてないと思う、たぶん)、福島県白河の山中深くにある、甲子(かし)温泉というのが、お風呂が大きくて、天井が高くて、じつにすばらしい温泉でした。風呂場が、旅館の建物から川を挟んだ対岸にあって、長い階段をおりて行くのだった。雪の季節にも一度訪れたことがありました。客は私ひとり。大きな風呂場の天井の湯気の噴出し口から、粉雪が舞い落ちてくるのが風情がありましたねえ。
思い出した、そのとき持って行った本は、メルロ=ポンティの『眼と精神』だった。


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