リメーク版・12人の怒れる男
名作『十二人の怒れる男』(12 Angry Men)のリメーク版(タイトルはぶっきらぼうに「12」のみ)を先週見ました。ニキータ・ミハルコフというロシアの俳優・監督の作品です。ミハルコフも陪審員長役で出ています。もちろん、全編ロシア語です。当然、字幕を追いかけながら見たのですが、ロシア語で、弁じたり、反対したり、怒ったり、脅したり、するのがごく自然に頭に入ってくるのが不思議なくらいです。演技する俳優たちの力量というものでしょう。
物語の骨格は、シドニー・ルメットの前作をそっくり踏襲しています。じつは、次の日、DVDを借りて異同を確かめました。確かめずにいられないほど圧倒的な作品に仕上がっていたからです。
前作は、アメリカの50年代の世相を反映しつつ、「議論によってものごとを決める」、という民主主義の基本を声静かに訴えるおもむきがありました。主役のヘンリー・フォンダがカッコよかった。
ミハルコフの、このリメーク版は、舞台を、現代のチェチェンに設定しています。ロシアとチェチェンの戦闘シーンがフラッシュバックで入ったりして、怖い映像が何度も出てきます。大雨の街で、破壊されたジープに引っかかったままの兵士の死体がある。黒い影が向こうからやってくる、あれは何だろうと思わせて、陪審員の協議のシーンに戻るということを、5回ほど繰り返します。最後にその黒いものの正体が分かる仕掛けでした。
前作でも、英語がよく話せない陪審員が出てきましたが、この作品でも、ロシア語を上手には話せない、しかしそれでも医者になれた、というチェチェン出身の人が出てきたりします。多民族国家における悲劇という点でも共通点があるのですね。
2時間40分もかかる映画ですが、長いと感じるいとまも与えません。12人の陪審員(みんな男、当然これも前作と同じ)を演じる役者が、そろって芸達者です。途中から、チェーホフの芝居を見ているような、ドストエフスキーの小説の中の会話を聞いているような、そんな気分になります。ロシア語はダー(イエス)とニエット(ノー)くらいしか分かりませんが、説得したり議論したりするのに向いている言語なのだろうなあ、としみじみ思いました。もうひとつ、こわれかけたピアノで演奏される民謡風のメロディーをはじめ、全編を流れる音楽がすばらしいものでした。 傑作だと教えてくださったアライさんに感謝!
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