モラルハザード
賞味期限切れの材料を使い回ししたり、事故米を給食用に転用したり、社会保険の事務処理をごまかしたり、そういうことがニュースになるたびに、ここ何年かのことですが、「モラルハザード」という言葉が使われます。
国立国語研究所の「外来語言い替え提案」によると、「モラルハザード」はこうなっていました。
言い替え語:倫理崩壊
例文:少年たちによる殺人事件の多発,モラルハザードが叫ばれる大人社会,自己中心性の肥大化など社会病理現象があらわになっている。
意味:倫理観や道徳的節度がなくなり,社会的な責任を果たさないこと
つまり、「本来踏むべき人の道を踏みはずしている、困ったものだ」という意味合いが濃厚です。なぜこんなむずかしいカタカナ語で言うのでしょうかね。昔なら「外道(げどう)」とか「人倫に悖(もと)る」とか言ったのでしょうけれど。
たしかに「モラルハザード」は、この意味で使われるケースが多いのですが、最近の金融危機を伝えるニュース(やブログ)を読むと、どうも様子が違います。
もともとこの言葉は保険の用語なんですね(国語研究所の言い替え提案にもそう書いてはあります)。
ランダムハウスの英語辞典(1993年版)では、
被保険者の信用と誠実さに関して保険会社が負うリスク
という説明があるだけです。倫理のことはひとことも書いてありません。理解したかぎりで言えば、「火災保険に入った人は、入ったという安心感から火の用心を怠ることがある」(そういう心理状態をモラルと呼んだもののようです)、それは保険会社にとっては痛し痒しの「危機(ハザード)」である、ということのようです。焼けぶとりをねらって自分の家に火をつける「保険金詐欺」の危険も常に伴っているわけです。
経済学でも、この意味の延長線上で「モラルハザード」という概念を使っているようです。くわしくは、ウィキペディア
などをごらんください。
保険用語としての「モラルハザード」の訳語は最初から「道徳的危険」というものだったようです。そのために「道徳」寄りの解釈が強くなって、「倫理崩壊;倫理欠如」などとなり、もっぱら「悪いことをするヤツの態度を糾弾するための用語」に転化したもののようです。
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