「母音法」
ちょっと旧聞に属しますが、『文藝春秋』九月号の座談会で、劇団四季の代表(?)浅利慶太氏が、「全部の文章を母音だけでしゃべる」母音法というものを唱えていらっしゃいます。アナウンサーの小谷真生子さん(この座談会の司会者)は、浅利さんの義理の姪にあたる。浅利氏の二番目の奥さんが、女優の影万里江。その弟の娘が小谷さんなのだそうです。浅利氏の最初の奥さんは藤野節子さんです。学生の頃、四季の『ひばり』という芝居を観たことがありました。それに藤野節子が出ていたはず。よく通る声が魅力的でした。浅利氏は、影さんが亡くなってから何年もたって、3番目の奥さん(野村玲子さん)と結婚したのですね。
母音法というのを体系化したのは、今から25年ほど前だそうですから、私が観たころはまだ過渡期だったのかもしれませんが、そういえば、劇団四季の俳優たち、この座談会にも出ている日下武史や、少し前に亡くなった水島弘の、せりふまわしが素晴らしかったなあ、と、思い出しました。日下武史はエリオット・ネスの吹き替えをやった人。
母音法とはどういうものか。私の理解したところではこうなります。
めぐりあいて 見しやそれとも分かぬまに 雲隠れにし夜はの月かな
えういあいえ いいあおえおおああうあい うおあうえいいおあおういああ
下のようにまず母音だけで声に出して読む。何度くりかえすかは書いていませんが、スムーズに口が動くようになったところで子音をつけて(上の文のままに)読むと、クリアに聞こえるのだという。普通の人間は人前でものを読むなどということは、まずありませんが、日頃から稽古しておくと、たとえば電話の話し方が明晰になるかもしれない。この座談会を読んでから、行き帰りの電車のなかで、母音の口の恰好だけをしてみることがあります。さすがに、声を出す勇気はありませんが。
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