憮然
「憮然」という言葉は「ムッとする」という意味で覚えていませんでしたか? 私は、長いことその意味だと思い込んでいました。『問題な日本語』という本で、本来の意味(落胆して、驚きあきれて、呆然とするさま)を知って、それこそ「憮然」としてしまいました。憮然の憮の文字は、立心偏に無ですから、「心がなくなる」から、「失意、がっかり、しょんぼり」などを意味するのだそうです。
文化庁が毎年(平成7年から)行なっている「国語に関する世論調査」の19年度版にも、この「憮然」の意味を聞く項目がありました。70.8%の人が「腹を立てている様子」のほうを選んだとあります。「正解」した人はわずかに17.1%。
他にも、「話のさわり」の「さわり」とは、「要点」のことでしょうが、そう答えたのは35.1%で、話の「最初の部分」だと答えたのが55%だったそうです。
こういう調査報告が出ると、朝のテレビ番組で紹介されます。新聞でも第一面で報道される。見ていて、読んでいて腹立たしいのは、この調査が何の目的でなされ、調査結果をどうしようというのか、それが伝わってこないということです。もちろん、公式の目的「国語施策の参考にするため」というのは出ますが、いっこうに、その「国語施策」が実行されたようには見えないのがおかしい。
70.8%もの人が間違えて覚えている言葉なら、その間違いを正用法にしましょうと提案してみればいいのに、と思います。「新しい」という今は普通に使われる言葉だって、「正しく」は、「あらたし」でした。言葉は変化するものだから、変化を是認しよう、というのはひとつの立場です。文化庁は、しかし、口が裂けてもそういう提案はしないでしょう。そろそろ、こういう世論調査はやめにして、世の流れにまかせたらどうなんでしょうか。
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