石鹸 | パパ・パパゲーノ

石鹸

 池内紀(おさむ)先生のエッセイのなかに、泊ったホテルの石鹸をおみやげ代わりにもらってくるということが書いてありました。四角や丸の小ぶりな、あの石鹸のことです。
 
 ヨーロッパ中を旅行している方なので、集めた石鹸もたくさんあるのだそうです。どういうふうに使うのか、書いてはあったと思いますが、くわしいことは忘れました。石鹸の香りで、かつて訪れた街を思い出す、という趣旨の文章であったのはたしかです。
 
 池内先生は、もちろん、ただ、石鹸の香りを嗅ぐだけではなくて、実際に、ご自宅のお風呂でその石鹸を使うと言ってらっしゃった。
 
 そのことがかすかな記憶にあったので、ミラノのホテルで残った石鹸をひとつもらってきました。何泊かすると、毎日新品の紙を破って使うわけではありません。包み紙に包まれたのが、大抵残っている、それをカバンに入れて持ち帰ったのです。
 
 その石鹸を、ゆうべ使ってみました。香料の種類など何にも分かりませんが、かなり、きつめの匂いがします。ずっと前に、パリで買ったという石鹸をもらったことがあって、有名ブランドの品物でしたが、匂いがきつすぎて使い切ることができなかった。それに比べたらマイルドな匂いです。ですが、日本でついぞ嗅いだことのない匂いです。


 自慢にもなんにもなりませんが、嗅覚の鈍いことでは人に負けません。犬に生まれていたら、とっくに家系が断絶していただろうほどの鈍さです。それでも、この香りにつられて、心はスカラ座近辺まで飛んで行きます。


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