山本七平 | パパ・パパゲーノ

山本七平

 サイトウさんに教えられて、山本七平『日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条 』(角川 one テーマ21)を読みました。小松真一(1911-1973)という旧台湾製糖という会社に戦前勤めていた醸造の専門家が、陸軍嘱託としてフィリピン行きを命じられ、終戦後、米軍の捕虜となったまま、抑留生活のなかで『虜人日記 』(74年私家版として発行、75年筑摩書房版刊行)という手記を書いたのだそうです。その記事を、山本七平が、摘記しながら、ご自身の捕虜生活(それより前の兵としての敗走生活)と重ねて、日本が負けるのは、どこに原因があるか、をえぐり出した作品でした。


 「日本が負ける」と書きましたが、山本さんは、「太平洋戦争において日本軍が負けた」こと自体は、当然のことと受け止めています。実際は、大本営以下、大将も参謀長も士官も兵隊も、だれひとり勝つなどと思っていなかったらしい。狂信的に思い込んでいた人は別として。それは、戦争当時からそうだった、口に出すと「非国民」とののしられるだけだった、ののしるほうも、そうやっていわば不安を押し殺していただけだったと、疑問の余地なくあからさまにしていきます。フィリピン諸島の山中で餓死した(友軍に殺されて「糧秣」にされてしまった兵も含めて)何十万という兵の死はなんだったのか、暗澹とする話が展開されています。


 この本は、1975年から76年にかけて月刊誌に連載されたものを2004年になってようやく単行本にまとめたものだそうです。


 「日本が負ける」というのは、万が一もう一度戦争をやることになったとしても、「今のままではかならず負ける」ということを言っているのでした。日本における戦争の原型は「西南の役」にすべてあらわれている、という指摘と、その理由の説明だけでも、本書を読む価値はあります。あるいは、日本の軍人たちは、戦争を年単位で考えず月単位で考えていた、という指摘の重要性。戦後の、労働運動、安保闘争、全共闘運動、それになにより大新聞の報道姿勢、どれをとっても、戦前、あるいは明治維新以来、一貫して同じであること。


 山本さんは、『日本人とユダヤ人』でセンセーショナルな登場をした方ですが、それ以後の評論は、思索の力と、論理的かつ粘着力のある文章とで、執拗に「日本とはなにか」を問い続け、あとに続くものたちへの明瞭なメッセージを発し続けました。1991年に69歳で亡くなりました。


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