堀口大学 | パパ・パパゲーノ

堀口大学

 堀口大学という詩人の名前を知ったのは、大学生になって合唱を歌い始めてからです。清水脩作曲の男声合唱組曲「月光とピエロ」というものでした。全5曲からなります。慶應義塾大学にワグネル・ソサイエティというサークルがあって、その合唱団は昔からレベルが高かった。ダークダックスはここのメンバーだった人たちです。その1971年の定期演奏会のプログラムにこの組曲が入っていて、ありがたいことにリアルプレーヤーで聞くことができます(→こちら )。第1曲目(月夜)および4曲目(ピエロの嘆き)がスローな曲ですが、しみじみとした情感が湧く名曲です。歌詞を引用しておきます。この曲は、男声合唱を歌った方ならどなたも知っているはずです。高校生たちも歌っていますね。


   月  夜


月の光の照る辻(つじ)
ピエロさびしく立ちにけり

ピエロの姿白ければ
月の光に濡れにけり

あたりしみじみ見まわせど
コロンビイヌの影もなし

あまりにことのかなしさに
ピエロは涙ながしけり


   ピエロの嘆き


かなしからずや身はピエロ
月の孀(やもめ)の父無児
(ててなしご)
月はみ空に 身はここに 
身すぎ世すぎの泣き笑い



 堀口大学はエロスをほがらかに歌いあげる詩をたくさん書きました。死の1年くらい前にも、こんなにかろやかな詩を作っています。
 
   至福の時
 
八十八年生きて来て百度(ももたび)千度
(ちたび)まだ飽きぬ
至福の時はあれだつた

顔を埋
(うず)めるほとのへや
(かく)のわれめの舌ざわり
 
至福の時はあれだつた
八十八年生きて来て


 こういう詩は、いくら素敵であっても曲にはなりませんね。


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