岩波英和辞典 | パパ・パパゲーノ

岩波英和辞典

 高校生になって英語を教えてくださったアリエ先生がまず勧めたのは、『岩波英和辞典』を買って辞書を引く習慣をつけろ、ということでした。茶系統の明るい表紙のその辞典の匂いを今でも覚えています。
 
 島村盛助・土居光知・田中菊雄編のその辞書は、いま調べると、私が高校に入学する2年前、1958 年に新版の初版が出ています。じつはアリエ先生は、山形大学での田中菊雄先生の教え子であって、編纂の過程をいくらかはご存じであったのだろうと思います。
 
 オックスフォード英語大辞典(Oxford English Dictionary 別名 New English Dictionary)は、その頃でも全20巻からなる、徹底網羅・悉皆記述というべき、おそろしく権威のある英語辞典でした。その辞書の編集をめぐってはいくつものルポルタージュが書かれています。のちに読んでもっとも面白かったのは『博士と狂人 』という本でした。
 
 この、OEDを徹底的に咀嚼して、日本人の役に立てるべく編纂が進められたのが『岩波英和辞典』です。田中菊雄『現代読書法』に、この仕事に着手するにあたって、OEDを月賦で手にいれる苦労話が書かれています。田中先生ご自身は、学歴は小学校卒業でしかないのですが、苦学して英語を習得なさったのだそうです。『現代読書法 』(講談社学術文庫)も本好きにはおすすめの1冊です。
 
 今では見られなくなりましたが、OEDの記述法にならって、語義の古い順に①②③…と分類されるので、この辞書(現在の英和辞典よりやや小ぶり。コンサイスよりは大き目)で勉強した高校生の中から、英語の語源に興味を持つ人がたくさんできたはずです。私もそのひとりでした。
 
 2年生の夏ごろだったか、辞書の背がバラバラになってしまって、もう1冊親に買ってもらいました。今では版元でも絶版になっていますが、私にとっては恩義のある辞書なのです。


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