オペラ座の「座」
今では『オペラ座の怪人 』というタイトルで通っているこの作品は、もとガストン・ルルーという探偵小説家が20世紀初頭に発表して評判になったものだそうです。何度も映画になった。私がこの作品の名前として記憶しているのは『オペラの怪人』でした。「座」というのは、おそらくアンドルー・ロイド=ウェバーのミュージカルに邦題を付けた頃からの、比較的新しい表記法でしょう。
パリの、オペラ座に出る地下鉄の駅名も、ただ「オペラ」とのみ記されているだけです。大文字で Opera と書いてあれば、劇場(の建物)を指すようです。いわゆるオペラ(歌劇)も、opera ですから、まぎらわしいときもあります。原題の「ル ファントーム ドゥ ロペラ」は、「オペラ劇場の亡霊」というような意味でしょう。
芝居小屋に「座」をつけた理由はよく分かりませんが、歌舞伎を演じる劇場を、江戸時代から「中村座」とか「八千代座」とか称していたそうです。「歌舞伎座」と言えば、銀座のあの劇場を指しますし、「南座」と言えば京都四条のあの劇場を指す。ところが、「前進座」というのは劇団の名前ですね。劇場のほうは「前進座劇場」と言うそうです。
「座」という文字がつく語には、楽市楽座、金座・銀座、上座・下座、旅芸人一座、などがあります。がんらいは「すわる場所」を指していました。「車座」などは「すわり方」ですね。「一座」は「集団で一緒にすわること」も言います。銀座の座は「ギルド」の意味。「メンバーに座席が確保された団体」ということでしょうね。
劇団を意味する「座」から、芝居をする場所・建物に意味が変っていったのだろうと想像します。
ミラノにあるオペラ・ハウスは、「スカラ座」と日本語では表記されます。ヴェネツィアのそれは、「フェニーチェ劇場」です。もっとも、50年くらい前までは「フェニーチェ座」と書く人もいました。
東京・竹橋の国立近代美術館の地下ホールで中国の 1940 年代の映画が何本か上映されたことがあります。もう20年くらい前かしら。そこで見た映画は、中国語でやるミュージカルで、「オペラの怪人」そのままの筋立てでした。タイトルは忘れましたが、翻案という分野の作品です。その日は、グロータース神父をお見かけしました。戦前北京で封切られたときに見たので、なつかしくてまた見にきたのだ、とおっしゃっていました。
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