「あんた問題」と「お前問題」
新潮社の季刊雑誌『考える人』の2008年春号の特集は「海外の長編小説ベスト100」です。この雑誌を買ったのは創刊号以来ですね。129人がそれぞれ10作ずつ選び、1位が10点、10位が1点という具合に積算して100作を選んだもの。ガルシア・マルケス『百年の孤独』が第1位、サド『悪徳の栄え』が第100位でした。
小谷野敦、関川夏央、児玉清などなど、名だたる小説読みたちのアンケートの文章も載っていて、それ自体も面白い読物になっています。比較的に女性の答えが少ないように見受けます。
拾いそこねたかもしれない小説を思い出す座談会「意外だ。惜しい。あ、忘れてた!」という鼎談(豊崎由美・加藤典洋・青山南)のなかで、翻訳が時代を反映するという話題にからんで、豊崎さんが「あんた問題」というのを持ち出します。
一時期の若者文学の翻訳では、恋人同士が相手のことを「あんた」って呼び
あうんですよ。ものすごく違和感がある。
最近現われた、これから現われる、新訳が「あんた問題」を解消してくれる場合のあることを示唆しています。この特集自体が、亀山郁夫の新訳『カラマーゾフの兄弟』の大きな反響、池澤夏樹個人編集の世界文学全集(河出書房新社)の刊行などがあって企画されたもののようです。タイミングのよい特集でした。
驥尾に付して、字幕の翻訳における「お前問題」というのもあるということを書いておきたい。佳境に入った「アメリカン・アイドル」(FOXテレビ)の審査員の一人に、ランディ・ジャクソンというミュージシャンがいます。あの映画俳優サミュエル・L・ジャクソンの従兄ではなかったか。親族であるのはたしかです。顔もよく似ています。この人が男の歌手の批評を語るときに、字幕にやたらに「お前」というのが出てきて、それこそ「ものすごく違和感がある」。「あなた」でいいではないか。あるいは「きみ」でも。「あんた」という訳語はまず出てきませんから「あんた問題」はないのですけれど。
英語に限らず、二人称をどう訳すかというのはいつでも慎重にすべきものだろうと思います。
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