エピグラフ
この直前の記事に書いた「三木清の思い出」という文章の初めに、ラテン語の文句が書いてありました。文章のおしまいに訳文が示されています。
友情の務めが果たされるためには一緒に何斗もの塩を食わねばならぬ
たしか、ローマの詩人ホラティウスからの引用だったと思います。この意味が若い頃にはよく分かりませんでした。年を経た今でも理解したといえるかどうか。ざっと次のような含意であろうと察するばかりです。
友だちが本当に友だちであると言えるためには、お互いに苦い思いを何度も味わって、それを克服しなければならない。
こういう、文章の冒頭に引用して(自作の場合もある)、文全体に彩りというか方向性というか、そういうものを添える、比較的短い文章を英語でエピグラフ(epigraph)と言うようです。奇抜な、ウィットに富んだ、短い文句のほうはエピグラム(epigram)です。どちらも、ギリシャ語が元になっていますが、グラフもグラムも「書かれたもの」というような意味らしいので、まぎらわしいことです。エピは「前に、上に、近くに」などの意味。
手元にあるペーパーバックの歴史小説にも、キケロの『弁論家について』から引用してあります。ラテン語と英語とを並べて書いてある。普通の読者はラテン語は読めないはずですから、一種の権威付けなのでしょうね。漢文を白文で出したようなものです。もちろん、私はどちらも読めません。
スタンダールの小説『赤と黒』(だったと思う)の冒頭に、英語で、
To the happy few. (幸福な少数者に)
となっているのは、エピグラフではなくて、献辞(dedication)と呼ぶようです。この、「だれそれに」というのもよく見かけます。
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