文学全集
かつて中野重治全集(筑摩書房)を持っていました。『歌のわかれ』『むらぎも』などの作品が、若いころの私を鼓舞してくれました。『本とつきあう法』(筑摩書房)という単行本も愛読しました。その中に出てきた話だったと記憶していますが、この作家は共産党に所属していた時期があり(国会議員だったこともあります)、集会の帰りに、あとから歩いてくる蔵原惟人とか(佐多稲子もいたか)が、ひそひそ当てこすりをしているらしいのを背中で感じて、屈辱にさいなまれるところがありました。
当人の中野重治本人も相当な人で、ワルクチを言わせたら日本一というくらい、パンチ が効いていました。鴎外が、詩人に必要な資質を決定的に欠いていたことを批判した文章がありましたが、ネチネチした言い回しが、中野の性格のよろしくない側面をあらわにしていました。いま、原文が思い出せない。この一文も『本とつきあう法』に出てきました。
結局売り払ってしまいました。
呑んでしまった(と言っても大層なものではありません)、文学全集のたぐいは少なくありません。有吉佐和子全集も吉行淳之介全集も、書棚から消えてしまいました。『西脇順三郎全詩集』という一巻本も、もはや本棚にありません。『西周全集』(これは全部ではなく2冊ほど)も消えました。
一度失ってしまうと、ふたたび手に入れる機会はずいぶん遠のいてしまうものだ、ということをヒシヒシと感じているような次第です。