ツェルリーナの変容 | パパ・パパゲーノ

ツェルリーナの変容

 『ドン・ジョヴァンニ』が面白くて、CDが5種類、DVDも3種あります。今度、小学館のオペラ・シリーズで出たDVDは、ムーティ指揮のもの。ドンナ・アンナがグルベローヴァなのでためらわずに買いました。期待にたがわぬ素晴らしい舞台です。グルベローヴァの出る場面だけでも見もの・聞きものです。小ゆるぎもしない歌唱を聞かせ、父を殺したドン・ジョヴァンニへの復讐の思いを表情豊かに見せてくれます。1987年のライブ録音。


 ツェルリーナという村娘が重要な登場人物です。このDVDでは、シュザンヌ・メンツァーという器量よしのソプラノが歌っています。「ぶってぶって、いとしいマゼット」「私の薬をあげる」という二つのアリアも素敵ですが、初めのほうの「手に手をとって」という、ドン・ジョヴァンニに口説かれながら、その気になりかかる二重唱も名曲ですね。


 いつも持ち歩いている iPod に入っているのは、ヨーゼフ・クリップス指揮のウィーン国立歌劇場の盤です。チェーザレ・シエーピがタイトル・ロール、ドンナ・アンナがシュザンヌ・ダンコ、ツェルリーナの結婚相手マゼットがワルター・ベリー、そして、ツェルリーナがヒルデ・ギューデンです。歴史に残る名盤なのだそうです。たしかに、シエーピの声は色気がたっぷりあって、誘惑者にピッタリです。なんと 1955年の録音です。


 ヒルデ・ギューデンのほかの役を聞いたことがないので、即断は禁物ですが、きれいな声ではなくて、わざと野卑な田舎娘を演じているように聞こえます。恋の手管に長けた娘という設定ですから、当時はそういう演出だったのでしょうか。


 現代のツェルリーナたちは、毅然としたところもそなえた、自立する女、という見立てになっているような気がします。ただの百姓娘ではないところを、声でもしぐさでも示すことが多い。たしかに性格の劇という側面を持つオペラなので、対照を際立たせる演出のほうが分かりやすいということはあります。でも、美貌のソプラノが、わざわざおきゃんな役作りをしなくてもいいよなあ、とおじさんの心は乱れるのであります。


 もう一人の女主人公、ドンナ・エルヴィーラも、捨てた男への未練断ちがたい想いを表現するのですが、歌手によってずいぶん違った印象を受けます。その話はいずれまた。