キャッと叫んでろくろっ首
時と所を選ばずに、かつての恥の記憶が突然よみがえることはありませんか?
ウワッと声が出たり、手で振り払おうとしたりします。
言わずもがなのことを言ってしまって、思わず人を傷つけたり。卑しい気持で自分のものでもないのに手をだしたり。できないと言うのが悔しくて、できると言ってしまって、さあやってみろ、と言われはしないか、ビクビクしたり。具体的に、圧倒的に、記憶の魔物が目の前に襲来します。
「実際にどんなのだい?」と聞かれても、忘れたいほどのことだから、今さら思い出せない、思い出したくもない、というようなことなのです。書いていて、我ながらまだるっこしいことです。
こういう状況のことだと思いますが、吉行淳之介が「キャッと叫んでろくろっ首」と呼んでいました。感じは出ています。身の置きどころを失って、狼狽してしまう様子を表現したものでしょう。
よい記憶、幸福な気持、などは、襲ってくるということがありません。マドレーヌを食べると記憶がまざまざとよみがえる、と書いた人がいましたね(じつはその作品は未読ですが)。食べ物とか、メロディーとか、温泉の香りとか、よいほうの記憶は、具体的な物件とともによみがえってくるもののようです。
「ろくろっ首」のほうは、いきなりやってくるので油断がなりません。昨日もそれがやってきたはずですが、なんであったか、もう忘れてしまいました。年のせいばかりでもないと思いたい。