嵐寛寿郎 | パパ・パパゲーノ

嵐寛寿郎

 少年の頃、嵐寛寿郎(アラカン)と言えば鞍馬天狗その人でした。そのころ(1950年代後半から)、すでにあの一種のダミ声だったでしょうか。記憶は定かでありません。ぜんそく持ちの人が出すような声でした。1903年生まれ。1980年没。森光子さんとはいとこ同士だそうです。


 鞍馬天狗は、杉作少年が危機に瀕する(「杉作危うし!」)と、必ずどこかから現われて助けてくれるのでした。馬に乗って頭巾をかぶっていました。宗十郎頭巾というものだそうです。ワクワクしましたね。


 1957年に『明治天皇と日露大戦争』という映画が封切られて、この作品では、アラカンが天皇の役を演じました。威厳のある立派な天皇だったと思います。


 むっつり右門だとか、軽めの町人とかも、演じました。後年、インタビューの中で、こんなことを話していました。天皇を尊敬するどこかの婦人から手紙をもらった。「天皇を演じたあなた様が、いかに、生活のためとはいえ、下々の人間の役を演じるのはおいたわしい」という意味のことが書いてあったのだそうです。


 生活のほかになにがありますかいな


というのが、アラカンさんの反応でした。


 そのインタビューが出ていたか否か、はっきりしませんが、竹中労が聞き書きをした、『鞍馬天狗のおじさんは』(今、ちくま文庫)は、告白のアケスケなこと無類の本です。アマゾンでも入手できるようです。