清水幾太郎 | パパ・パパゲーノ

清水幾太郎

 清水幾太郎は『論文の書き方』(岩波新書、初版 1959 年)の著者として知られています。今でも、岩波新書売り上げナンバーワンではないでしょうか。


 「知的散文」というものを書くのにどこに注意すればいいか、そういう散文の書き手として、当時はもちろん、その後も比肩しうる人が出てこなかったくらいの名手が、これ以上はないというくらいの分かりやすさで書いてくれたものです。


 大学の入学試験問題にも何度も出たくらいでした。


 この本で教えてもらったと記憶していたのに、いま、探してもみつけられないのがあります。


 それは、文章がうまくなりたかったら、ことばの好き嫌いを自分の中ではっきりさせておくことだ、というすすめです。清水先生ご自身は、「原点」とか、「一定の」とかを、嫌いなことばの例として挙げていたはずです。むろん、嫌いなことばは自分の文章から除け、と言ってました。


 私が、嫌い、というより「間違い」だと思って使わないでいるのは、「から」のつもりの「より」です。たとえば、


 ただいまより新郎新婦が入場します


 会議は4時より開始します


などの「より」。「から」のあらたまった表現が「より」だということになってしまったらしい。


 清水幾太郎先生(1907-1988)は、戦後の論壇に大きな足跡を残しました。左翼から右翼へ舵を大きく切ったということで毀誉褒貶の嵐にさらされた(今も、かまびすしい)思想家です。何度もお目にかかってお話を聞く機会にめぐまれました。お会いしたときはいつも素敵な紳士でした。