沈香も焚かず
「沈香も焚かず屁もひらず」という慣用句があります。「よくも悪くもなく平凡に暮らすこと」を言いますね。目だった活躍をするでもなく、さればと言って、こっそり悪事をたくらむでもない、というような人物を評するときに使われます。
「沈香」は普通は「じんこう」と読みます。沈丁花を「じんちょうげ」と読むときのように。しかし、沈丁花を「ちんちょうげ」と読む人もいるし、そう読んでも間違いとはいえないようです。同じように、「沈香」も「ちんこう」と読んでもよいようです。
「沈香」は、お香(こう)のひとつだそうです。沈丁花の仲間の木の樹脂からできる。よい香りが立つといいます。「伽羅」とも呼ばれる。香りをかいだことはありません。それを屁のような、ありふれた現象と対句にしたところがこの慣用句の面白さでしょう。最初はどこでできたものか、調べはつきません。
「沈」を「チン」と読むのは漢音で、「ジン」と読むのは呉音のようです。
漢音と呉音をおさらいしておきます。
中国から漢字を輸入した時代によって、音が少しずつ違っていました。もちろん時代が違っても読みが変わらない字も多かった。
初めに来た(6世紀)のが呉音、あとから(7世紀)来たのが漢音。「呉音を学んではいけない」とお触れが出たりして、呉音は、主に仏教語に残ったのだそうです。多くの漢字は、ですから、漢音で読まれることが多い。
その後、平安時代以降に入ってきた中国語の音をまとめて「唐音」と呼ぶ。
以上、『新漢和辞典』という辞書の解説で勉強しました。
呉音・漢音・唐音が現代にも生きている例を、大東文化大学のサイトで見つけたので引用します。
呉音: 東京(とうきょう) 修行(しゅぎょう) 頭脳(ずのう)
漢音: 京城(けいじょう) 進行(しんこう) 頭部(とうぶ)
唐音: 南京(なんきん) 行宮(あんぐう) 饅頭(まんじゅう)