もてない男 | パパ・パパゲーノ

もてない男

 小谷野敦さんの『もてない男』(ちくま新書,1999)はベストセラーになりました。意表をついたタイトルで、世の中のもてない男たちは、これを読んだらもてるようになるか、と期待して読んだのかもしれません。


 しかし、もてない男、というのは、この本では小谷野さん自身のことを指していました。もちろん、当人はもてたかったのに、うまく行かなかったという話を書いたわけです。共感を呼ぶところがあったので、多くの読者を獲得したのでしょう。


 もう一度読もうとも思わないので、記憶にしたがって書きますが、小谷野さんの「もてなさ」は、自分が好意を寄せた人が、同じ気持を返してくれなかった、ということだったと思う。それなら、どんな男にも経験があります。書いていて思いますが、そうか、そこが共感を呼んだのか。


 ふつう、「もてない男」と言えば、女からほとんど相手にされないヤツのことをイメージします。この本も、そういう受けとり方をされたフシがありました。自分はもてない、と思っている男は、これまで相手にされた経験がないか、あってもほんの少しだった、と自覚しています。


 アオキさんもそう感じて50年以上の人生を歩んできたのだそうです。もちろん、結婚して、お子さんにも恵まれましたから、もてた経験が皆無というのではないらしかった。でも、この本読んだ? と聞いたら、顔を赤らめてこう答えました。「こんなタイトルの本、恥ずかしくてレジに持っていけないよー」 

 せっかくのベストセラーも、こういう読者は失っていたのですねえ。


 小谷野さんの本もたくさん出ていますが、『中学校のシャルパンティエ』(青土社,2003)という、音楽エッセイ集があります。シャルパンティエという、あまり名の知られないフランスの作曲家を題名に入れたワケ:音大のソプラノ(彼女がシャルパンティエの曲を歌う)の人と、出身校の中学校で教育実習をして、たちまち彼女に恋してしまう、という話です。思い入れの深いエッセイなのでそれをタイトルにしたのでしょうが、これではあまりお客さんはつかなかったかも知れませんね。この本には、《「もてる男」山田耕筰》という一編も収められています。またもや「もてる」が主題ですが、じつに素晴らしい文章でした。


 小谷野さんは、最近、ネット恋愛で結婚したそうです。おめでたいことです。