タイトルの魔力 | パパ・パパゲーノ

タイトルの魔力

 尊敬する佐々木健一教授に『タイトルの魔力』(中公新書、1613番)という本があります。タイトルをめぐる哲学的考察が展開されていますが、読みにくいということはありません。作品に名前をつけるという行為がどういうものか、だんだん引き込まれてしまいます。説得力は無類です。


 西洋の絵画のタイトルは、隅(大抵は下)のプレートに記されていますが、それは、そんなに古くからのことではないのだそうです。


 明治乳業が発売したコンデンス・ミルク「メリーミルク」の絵の話が出てきたりします。メリーちゃんは、缶の表面に、そのミルク缶を持って立っている。持っているミルクの缶にもさらにメリーちゃんが描いてある。それと、「テネシー・ワルツ」という歌のタイトルは、仕掛けが共通している(入れ子型になっている)、というふうに展開します。


 マルセル・デュシャンの「泉」と題する作品の写真も出てきます。小便器を逆さにしただけの「作品」にそういうタイトルをつけて展覧会に出品したのだそうです。隣のページには、アングルの同じタイトルの傑作「泉」の絵(美しいヌードが壺を左肩に掲げもち、手元から水がこぼれている、あの絵)があります。


  タイトルは、それがつけられると、作品を「しかじかのものとして見よ」というメッセージになるということが、他にもさまざまな作品(絵、文学作品など)を例に説明されています。


 マグリットに、精密にパイプを描いた絵があって、「これはパイプではない」というタイトルがついていました。


 そういう遊びがなぜ成立するかについても、考えるヒントがちりばめられています。


 佐々木先生ご自身の他の本に『ミモザ幻想』(勁草書房)というのもあります。記憶をめぐる文章が収められていましたが、想像力をつよく刺激するタイトルですね。