カール・ベーム
ようやくベーム指揮『後宮からの誘拐』のDVD(ドイツ・グラモフォン)を手に入れて見ることができました。カール・ベームのおそらく最後の指揮棒姿だと思います。1980年の録画。テレビで放映されたもののようです。
ベームはこのとき、すでに85歳ですから、当然というか座って指揮をしています。
このとき、ベルモンテを歌ったのがフランシス・アライサ。メキシコ出身のテナーです。『ドン・ジョヴァンニ』のドン・オッターヴィオも持ち役のようです。彼が、語ったという記事を見つけましたので引用します。
《ゲネプロのときのこと、メキシコから来た私の友人が客席に座っていましたが、やおら私の方へやって来ると、言いました。「ねえ、あそこの前で指揮している老人は、いったいだれ?」。私が「どうして?」と訊き返すと、「だって、あの人の持っている資質や、あふれだす魅力、それに彼が音楽を奏でるときのあの力強さが、ものすごいからさ」と言うのです。で、私は教えてやりました。「あの人がカール・ベームだよ」》
レリ・グリストがブロンデを演じます。初めて見ましたが、小柄な人でした。グルベローヴァのコンスタンツェと声の質があって、重唱の響きがじつにきれいです。
コンスタンツェは、大アリアが3曲もあって、歌うほうは大変のようですが、聞くほうはすこぶるうれしい。第10曲「悲しみが私の運命になりました」のせつなさは、画像で見ても変わりません。
ベームが、次の年に亡くなって、追悼のコンサートで、この曲をグルベローヴァが歌ったのだそうです。それを聞いたゲオルク・ショルティがいたく感激して、このオペラの録音を提案し、4年後にデッカから発売になりました。ずっとそのCDを聞いていましたので、画面を見ながら、歌を聴きながら、今は亡き、二人の名指揮者のことを考えていました。