八月の鯨
ベティ・デイヴィス(1908-89)とリリアン・ギッシュ(1893-1993)が姉妹役になって出た映画『八月の鯨』は、日本では岩波ホールで(おそらく1988年に)公開されました。1987年の作品ですが、翌年には日本で見られたことになります。その年に私も見たはずです。20年も前のことになるのですねえ。
リビー(ベティ・デイヴィス、79歳)とサラ(リリアン・ギッシュ、90歳)の姉妹が毎年夏を過ごす別荘での夏の数日間の話だったと思います。映画制作時の二人の実年齢は上の通りですが、物語のなかの年齢はもう少し若い設定でした。驚くべし、リリアンが妹の役だということになっていました。そのことが、当時話題になりました。
ばあさんが二人で夏を過ごしているわけですが、姉のリビーは病気でもう目が見えません。そのこともあって、始終機嫌がよくないし、ことばにもトゲがあります。姉の世話をしているサラは、愛嬌のあるおばあさんです。近所に住む、ロシアの没落貴族が毎朝散歩の途中、別荘のそばを通ります。そのとき、サラが言ったセリフ。
What a beautiful morning it is! (なんて美しい朝なんでしょう!)
中学校の英語の授業で教わったまんまの感嘆文が、実際の場面で使われたのに感動したのをまざまざと覚えています。
別荘は島の高台にあって、若い頃は、八月にはそこから遠くの海を泳ぐ鯨が見えたのに、今では見ることがない。むかしからそこにきていた姉妹は、今年こそ見えるでしょうね、と思いながら遠くを見つめている。題名(The Whales of August)は、そういう含みなのだそうです。
往年のハリウッド・スターふたりが、老いを迎えて(実際ベティは2年後に亡くなる)、自然体で演技したように見える、静かな名画でした。今ではきっとDVDで見られるはずです。TVの映画チャンネルでもときどき見かけます。