状況可能 | パパ・パパゲーノ

状況可能

 「状況可能」という術語は柴田武先生の本で教わったと、前に書きました。秋田方言の、こんな例だった。


 小学生の少女が事故にあって怪我をし、入院します。治療の甲斐あってもうすぐ退院できる、ということを報告した作文に、


 院長先生が、あと3日たてば退院するにいいと言いました


とあったのを、柴田先生が見つけて、ご論文に取り上げたものでした。


 「…できる状況になる」というのが、状況可能表現のカナメです。他の例をあげてみます。


 ◇見るにいい

  「見るにいい映画」(見てもいい映画)―「18歳未満でも見るにいい映画」

  「この映画、見るにいい」―「この映画は、(18歳未満でも)見るにいい

  

  否定形は「見らえね」(見られない)ですから、共通語と一緒です。

 

 ◇運転するにいい

  「運転するにいい車」(例:故障が直って、もう動かせる)

  「この車、明日だと運転するにいいよ」(例:故障が直ってくるから、あるいは、他の人が使わないから、など)


  否定形は、「運転されね」(運転されない)です。これは、共通語だと「運転できない」になりそうです。さっきの「退院するにいい」も、否定形になると「退院されね(退院されない)となります。「まだ治療が必要で、3日では退院できない」などと言いたいときにこう言います。


 前に紹介した『秋田のことば』(無明舎)には、秋田方言のこの表現について他にもいろいろ例があがっています。県の南と北とで、ずいぶん違っているのが面白かった。