蝶々夫人
プッチーニのオペラ『蝶々夫人』(Madama Butterfly, マダム・バタフライ)は、20世紀初頭の長崎が舞台になっています。アメリカ海軍士官のピンカートンと蝶々さんの悲恋物語だと思っていましたが、ちょっと違いました。
没落士族の娘蝶々さんは、家が傾いて芸者になったのですね。周旋屋のゴローというのが、ピンカートンにこの芸者を世話することになります。蝶々さん15歳。当時の金で100円。安い買い物であった、と、私の持っているCDの解説には書いてありました。
要するに、来日した外国人の例にもれず(無論ラフカディオ・ハーンのような例外もあります)、ピンカートン士官も「現地妻」を「調達」したのでした。キリスト教に改宗したり、祝言をあげたり、「結婚」の形式を整えてあります。主人がいったん帰国しているあいだに子どもも生まれる。男の子ですが、名前がなんと Dolore (Sorrow) 「悲しみ」というのです。
帰りを待ちわびて歌うアリアが、あの「ある晴れた日に」です。あらすじを頭においてこのメロディーを聞くと、哀切きわまりない歌であることがよくわかります。
ピンカートンはケイトというアメリカ人の妻を伴ってふたたび長崎に来たのですから、この恋が悲劇に終わるのは目に見えています。父にもらったという懐剣(でしょうね)が重要な小道具として使われる。
私の聞いているCDは、カルロ・ベルゴンツィ(ピンカートン)とレナータ・テバルディ(バタフライ)、それに、女中のスズキに扮するのが、フィオレンツァ・コッソットの組み合わせ。1958年(初演からほぼ50年後)の録音。セラフィン指揮。デッカ盤。
テバルディがかわいい声で "uno! due! tre!" と言ったりします。ソプラノ殺しと言われることもある、出ずっぱりのオペラですが、ベルゴンツィの美声とあいまって、悲惨な話ではあるものの美しさこの上ない声を聞かせます。