柴田武 | パパ・パパゲーノ

柴田武

 柴田武先生がお亡くなりになった、と今朝の新聞が報じました。12日のことだったそうです。享年八十八。低酸素症と病名が書いてありました。


 お若い頃、国立国語研究所に所属していて、筑摩書房から出ていた雑誌『言語生活』の編集もなさってました。雑誌作りに一家言をお持ちでした。駆け出しの編集員だったころ、教えていただいたことを今でも覚えています。「雑誌の特集が成功したと言えるのは、1本の論文でいいから、賛否いずれでも強い反響があったときです」という意味の助言でした。


 何本かの論文を集めて特集を構成するのですが、核になる文章をどこかに配するということを考えます。いつも柴田先生の教訓を思い出していました。こちらが期待したとおりの反応があるとはかぎりませんが。


 著者として何冊かの本、何本もの論文をお書きいただきました。70台になってからのことだったでしょうか、ヒザを悪くなさって、いわゆる「びっこ」をひくようになられたことがあります。この単語を聞くと、本当に「痛いんです」とおっしゃいました。書くときも話すときも、お手本にしたいほど、ことばの選び方が素敵な先生でした。


 「自転車」の発音は、NHKの『アクセント辞典』では、「ジンシャ」とにアクセントが落ちて後続が下がるように書いてあります。東京生まれの人たち(今60台から50台)の発音を聞くと、ほとんど全員「ジンシャ」と、ではなくです。しかも平板に発音する。という発見(?)をお伝えしたら、名古屋出身の柴田先生は「それなら名古屋とおんなしだ。せっかく苦労して覚えたのに」とお答えになりました。たったひとつだけモノをお教えしたことになりました。誇らしい思い出です。


 ご冥福を心からお祈りいたします。