「四」の読み
窪薗晴夫先生に『日本語の音声』(岩波書店)という本があります。これは名著です。音声学にかんして疑問があるときに開くと大抵のことが書いてある。当たり前ですが。しかも例に出す語が、いちいちよく吟味してあるのでアタマにすっきり入ってきます。
この本の「はしがき」冒頭にこうあります。
1から10まで順番に数えるときと,逆に10から1へと数えるときとでは発音が変わってしまう部分がある.前者では4と7がそれぞれ「しー」「しち」となるのに対し,後者では同じ数字がそれぞれ「よん」「なな」と発音される.
なぜそうなるのかが本文にあるだろうと、ページを繰っても見つけられない。たまたま、言語学会で先生にお目にかかったので、どこを読めば理由が書いてあるでしょうか、とうかがったら、本文には出てこないのだそうです。
4を「し」とも「よん」とも読み分けるのは、平安時代に例があるのだ、とその場で教えてくださいました。「し」は「死」につながるので避けられる、いわゆる「忌み言葉」の類なのだそうです。「しち」は「いち」と聞き間違えないために、訓読みにするのだとも。
さて、「四」を「し」と読む例、「よ・よん」と読む例を、思いつくままあげてみます。
し:四散・四天王・四角・四大・四民・四六・四面・四半分・四捨五入・四海・四股・四通八達・四分五裂・四半期・四六時中・再三再四・三寒四温・四月・四肢・四則・四苦・四高・四書・四声・四の五の・四重奏・四部合奏・四分音符・四条河原・四庫全書・文房四宝・四分咲き・四分の一
よ・よん:四段活用・四次元・四年生・勲四等・単四電池・四輪駆動・四分の一
四分の一だけが、両方の読みがあるようです。いまは「よん」が優勢か。
なお、旧制高校の金沢の「四高」は、「しこう」と読まないと卒業生(といっても多くは鬼籍に入られているでしょうが)に叱られます。